区別する情報は何か
「電子書籍」に関するエッセイの中で、「紙媒体書籍」を比較対象とした記述があれば伝わりやすくなります。しかしながら、適切な比較対象を示したとしても、それだけで論理的なエッセイを作成できるわけではありません。
前回の記事で示した<悪い例>の第1段落の記述は、典型的なミスを紹介したものです。
「日本料理」を比較対象に用いて「イタリア料理の魅力」を述べる際、「イタリア料理では魚貝類を美味しく食べられる」という情報だけを示した場合には「日本料理でも魚貝類を美味しく食べられるではないか」と批判されてしまいます。「A」の比較対象として「B」を示した場合、「AとBを区別する情報は何か」を考えなければなりません。
<悪い例>の第1段落
スマートフォンやタブレットなどの携帯端末の普及により、電子書籍が一般化してきている。従来からの紙媒体書籍と比べると、書籍自体に関する物理的スペースが不要であるため保管面でのメリットは大きい。また、電子書籍の場合、「読みたい」と思ってから実際に読むことができる状態に至るまでの時間が短い。さらに、購入する際に書店へ足を運ぶ必要もない。
※<悪い例>の全文はこちらの記事の中にあります
問題点
下線部「さらに、購入する際に書店へ足を運ぶ必要もない」は、電子書籍のメリットとして「書店へ行く労力が不要なこと」を挙げた記述です。
確かに、データをダウンロードするだけでよい電子書籍においては、書店へ足を運ぶ必要はありません。しかしながら、紙媒体書籍であったとしても、宅配サービスを利用すれば同じことが言えてしまいます。
このように考えると、下線部の記述は電子書籍と紙媒体書籍の区別にあたる情報とは言えません。電子書籍の比較対象として紙媒体書籍を挙げるのであれば、これとの違いにあたる情報を示さなければなりません。
ちなみに、宅配サービスを考慮に入れた記述をすると、下記の【改善例】のように字数がかかりますので、字数的制約が厳しい場合には「さらに~」の記述を省いてもよいでしょう。
【改善例】
さらに、電子書籍は入手にかかる労力が小さい。紙媒体書籍を購入する方法として、書店へ足を運ぶ方法と宅配サービスを利用する方法が挙げられる。前者の場合には書店への移動という労力が発生するし、後者の場合にも受け取りの労力が発生する。宅配サービスの内容によってはポストに投函されたものを受け取るだけでよい場合もあるが、梱包を解く労力や本をポストから運ぶ労力は生じる。
情報を示す順序にも配慮したい
少し細かい指摘になりますが、情報を示す順序にも配慮できれば、より一層伝わりやすくなります。
<悪い例>の第1段落で示した情報を箇条書き的に挙げます。
① 保管スペースの話
② 読める状態に至るまでの時間の話
③ 入手にかかる労力の話
このように①→②→③の順で情報を示していますが、欲を言えば、③→②→①の順にしたいところです。
「入手(③)」してから「読む(②)」わけですし、一般的に「保管(①)」の問題はこれらの後に生じるものだからです。
(吉崎崇史)