字数調整スキルの重要性
日本語小論文テストや英語ライティングテストにおいて、まず受験生が直面する問題は「字数を増やすこと」でしょう。一般的には、少なくとも制限字数の8割以上を書く必要があると言われています。
また、トレーニングを重ねるにつれて「書きたいこと」が増えていきます。そうすると、今度は「字数を減らす」必要に迫られます。どれだけよいアイデアが浮かんでも制限字数を超えるアピールができないからです。
字数を調整する際に有効な道具が「例示」です。いつ、どこで、誰が、何を、どのようにしたのか。こういった具体的事実を示す情報は字数の増減がしやすいでしょう。
また、そもそも言葉というものが世にある事象を抽象化したものですので、言葉を使用した説明はどうしても抽象的になりがちです。他者へ伝わりやすいかたちにするためにも「例示」を活用して話を具体化したいところでもあります。
字数調整のために使いやすい「例示」ではありますが、ミスをしてしまうと「単なる字数稼ぎ」と評価されかねません。以下では「例示」を書く際における重要ポイントを説明したいと思います。
基本形
A。たとえば、B。
(=「BなどA」)
目的手段の関係
「例示」の基本形(A。たとえば、B。)において、発信者が伝えたい情報は「A」です。「B」は「『A』を伝えるための手段」です。「例示」のトレーニングでは、まず、この「目的と手段の関係」をおさえましょう。
【例文】
私はパスタが好きだ。たとえば、カルボナーラとかね。
考察
単に「私はパスタが好きだ」と述べた場合、「『パスタ』という言葉を知っている人」にしか言いたいことが伝わりません。「たとえば、カルボナーラとかね」と続けることによって、「『パスタ』という言葉を知らないけれども『カルボナーラ』という言葉を知っている人」にも言いたいことを伝えることができます。このように「例示」を使うことによって伝わる確率が上がるのです。
いま「私」は「パスタが好き」という情報を伝えたい人です。「カルボナーラが好き」という情報を伝えるために言葉を使っているわけではありません。仮に「カルボナーラが好き」という情報を伝えることが目的であれば、最初から「私はカルボナーラが好きだ」と言います。
「例示」を使うときには、「何を伝えるための例なのか」を考えることが欠かせません。
包含関係
「A。たとえば、B。」という表現において、上述の「目的手段の関係」に加えてもうひとつ注意しておくべきことがあります。それは「AとBの包含関係」です。
例示に使う情報(B)は、伝えたい情報(A)の意味の範囲の中に含まれるものでなければなりません。
「カルボナーラ」は「パスタ」の一種なので、【例文:私はパスタが好きだ。たとえば、カルボナーラとかね。】は正しい例示文です。
パスタにもさまざまなものがあります。「カルボナーラ」というのはそのうちの1つに過ぎません。【例文:私はパスタが好きだ。たとえば、カルボナーラとかね。】で伝えたい情報は「私はパスタが好きだ」ということですので、他に何か述べられていない限り、「私はカルボナーラ以外のパスタも好き」と解釈します。「ペペロンチーノも好き」と読むことになります。
- 「私はパスタが好きだ。たとえば、カルボナーラとかね。」・・・「カルボナーラ以外のパスタも好き」という意味を含む
- 「私はカルボナーラが好きだ」・・・「カルボナーラ以外のパスタも好き」という意味を含まない
複数の例を示す場合
A。たとえば、B。あるいは、C。
(=「BやCなどA」)
Aの例としてBとCを示したいときには、orの論理を用いると「例示である」ということが明確になります。「B」と「C」は、「Aの例であるという役割」において区別されるものではないからです。
(吉崎崇史)