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【関西医科大学】「何について語るのか」の判断で差がつく小論文問題

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関西医科大学2018後期

 

高齢者医療と将来を背負う世代のどちらに税金を重点的に使うべきか。


少し表現をシンプルに書き換えましたが、このような問題が関西医科大学後期入試(2018)で出題されました。


今回は、この問題をもとに、「論述の際にはどのようなことを考えればよいのか」をお伝えさせていただきたいと思います。

 

「高齢者医療」と「高齢者」の区別


まず「高齢者医療」という表現。単に「高齢者」と表現されていないことに注目しましょう。


「AとB」という表現がなされているとき、基本的にはAとBが対応しています。

 

  1. A:高齢者医療、B:将来を背負う世代
  2. A:高齢者、B:将来を背負う世代


1つ目よりも2つ目のほうが「年齢層に着目した比較対象」を示していますので、強い対応関係が認められます。そのため、注意しないと、ついつい高齢者と将来を背負う世代の~」と読んでしまいかねません。こういった「引っかけ問題」は怖いですね…。


仮に、2つ目の高齢者と将来を背負う世代のどちらに税金を重点的に使うべきか」という問題であった場合、「『高齢者』と『将来を背負う世代』のいずれに利益を与えるべきか」といった(少なくとも論述の上では)シンプルな議論を展開することになるでしょう。


もちろん、「高齢者医療」と表現されている今回の問題設定でも「『高齢者』と『将来を背負う世代』のいずれに利益を与えるべきか」という議論をすること自体は可能ですが、それだけではないのが絶妙なところです。


「『高齢者』と『将来を背負う世代』のいずれに利益を与えるべきか」という問題設定であれば「どちらが大切か」といった価値観をぶつけるだけの感情論になりかねず、そうなると「水掛け論」に陥るおそれもあります。


政策的決断をしなければならない場面であれば、そういった議論がなされることもあるかもしれませんが、価値観をダイレクトに問う出題は、思想信条の自由を大前提とする大学の入試問題に適さないように思えます。その意味で、「高齢者医療~」という問題設定を最初に確認したとき、素直に「よく考えれらていて凄いなあ」と感じました。

  

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  1. A:高齢者医療、B:将来を背負う世代


今回扱っているのはこのような問題設定ですので、誰にお金を使うのか」というよりは何にお金を使うのか」という議論をすることになります。


特に気にしておきたいのが「高齢者医療に税金を使う」ということの具体的な意味


たとえば、「高齢者医療の部門にお金を使ってそのサービス内容の充実を狙う」と考えれば、高齢者向け医療サービスの供給者にお金がわたり、その結果として需要者である高齢者が恩恵を受けることになるでしょう。ある意味で「高齢者」の利益は間接的なものになります。「将来を背負う世代」を受益者とすることが明らか「将来を背負う世代に税金を使う」こととの違いを意識した論述を仕上げたいところです。

 

「税金を使う」ということ


次に「税金を使う」話になっていることについて考えてみたいと思います。


「納税者から集めたお金をどう使うか」という問題です。自分のお金をどう使うかは個人の自由でしょうが、(元々が他人のお金を含む)税金ですので使途に合理性・正当性が要求されます。「そう言われたら仕方ないな」といった納得を目指す話になるということです。この点についての議論展開まで示すことができれば、読みごたえのある答案になります。

 

  • 「○○にお金を使うことによって社会全体の利益を実現できるはず」
  • 「市場経済原理からすると後回しになりがちな○○にこそ国家が介入すべき」


このような展開が一般的だと思います。後は「肉付け」をするのが腕の見せどころでしょう。

 

水掛け論を回避する議論


「AとBのどちらに税金を使うのか」の問題において「Aに税金を使うべきだ」と主張。


このとき、「Aのほうが大切だから」といった話をすると、対立意見の論者から「何言ってるんだ!Bのほうが大切じゃないか」と怒られそうです。そうなると価値観が前面に出てしまい、感情的な議論になりかねません。


そもそも人はそれぞれの価値観をもっており、目の前にいる人がたまたま自身と同様の価値観をもつ人であれば、議論する必要性は大きくないでしょう。

 

  • 「私はこう思うんだよね」
  • 「だよねー、私もそう思うよ」


このようなやりとりは「私はひとりじゃない」といった安心感をもたらすでしょうが、議論というものはそれを目的にしたものではないと思います。

 

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  • 「私はこう思うんだよね」
  • 「えっ、私はそう思わないんだけど…なんであなたはそのように考えるの?」


このようなやりとりを重ねることによって、議論の前には想像すらしなかったアイデアが生まれてくるかもしれません。あるいは、異なる意見の持ち主と議論をすることで、自分の考え方が明確になるかもしれません。


こういった議論の効用を狙うためには「自分と異なる考え方の人に向けたメッセージだ」ということを念頭に置いた発言をしておきたいところです。

  

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  • 「Aのほうが大切だから、BよりもAに税金を使うべきだ」


この発言は「Aのほうが大切だ」という価値観を共有している人には伝わるでしょうが、そうでない人には伝わらず、その結果、ただ価値観をぶつけ合うだけの感情論に陥るリスクを抱えています。

 

  • 「なぜBよりもAに税金を使うべきなのか」


これを感情論や水掛け論にしないためには、「Aに税金を使う効果>Bに税金を使う効果」という関係を示さなければなりません。「Aに税金を使うことによってBにも利益となる」という展開も使えるでしょう。


高齢者と将来を背負う世代のどちらに税金を重点的に使うべきか」ではなく、高齢者医療と将来を背負う世代のどちらに税金を重点的に使うべきか」という問題設定は、感情論や水掛け論に陥りにくい条件になっています(ピンとこない人は、実際にこれら2つの小論文を書いてみるとよいかもしれません)。


今回扱った問題だけでなく近年の関西医科大学の小論文問題「入試に小論文を課すことの意味」が見えてくる良問揃いですので、入試に小論文があるすべての人にオススメしたいです。

 

(吉崎崇史)

 

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