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大学入試英語成績提供システムの始まりと終わりとその先

2019年11月1日萩生田文科相が記者会見を行い、英語民間試験の利用を延期すると発表しました。


本記事では、これまでの経緯をまとめ、今回の延期発表によってどのような変化が起こり得るのか注目すべき点を示します。その上で、大学が独自で4技能評価と向き合う場合どのようなテストが現実的なのかについて考えたいと思います。


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【経緯】「大学入試英語成績提供システム」の始まりと終わり


今回の延期発表について考察するために、これまでの経緯をまとめてみます。


数年後に振り返るための備忘録としての意味もありますので、なるべく詳しく経緯を残しておこうと思います。

 

2017年7月:「大学入学共通テスト実施方針」の公表


2017年7月文部科学省から公表された「大学入学共通テスト実施方針」には次の記述があります。

 

高等学校学習指導要領における英語教育の抜本改革を踏まえ、大学入学者選抜においても、「読む」「聞く」「話す」「書く」の4技能を適切に評価するため、共通テストの枠組みにおいて、現に民間事業者等により広く実施され、一定の評価が定着している資格・検定試験を活用する


目的は、大学入試において英語4技能を評価すること。


学校教育の中で4技能を扱うことは重要だとは思いますが、現実問題として「入試に必要か否か」という観点が「その技能を高めようとするか否か」に影響します。そのため、「大学入学者選抜において、…4技能を適切に評価」しようとしているのでしょう。


従来、大学入試においては「読む力」が重視されてきたことを考えると、大きな変更だと言えます。


「現に民間事業者等により広く実施され、一定の評価が定着している資格・検定試験を活用する」とありますが、これまでに4技能テストを実施してきた民間事業者等のノウハウを活用するためでしょう。


この方針により、民間事業者等が実施している4技能テストの成績を大学に送付する「大学入試英語成績提供システム」が動き始めようとしました。


この4技能テストを受ける時期や回数には「4月~12月の間の2回まで」という制限が付されていました。

 

2018年3月:文部科学省による4技能テストの公表


2018年3月文部科学省認定した4技能テストは次の通りです。

 

  • ケンブリッジ英検
  • 実用英語技能検定(英検)
  • GTEC
  • IELTS
  • TEAP(PBT)
  • TEAP(CBT)
  • TOEFL iBT
  • TOEIC L&R/TOEIC S&W

 

受検料は各テストによって大きく違います。「TOEFL iBT」「IELTS」などの2万円以上の受検料が「事実上、受験料に追加される」ことに負担感を覚える人も少なくありません。この観点からすれば、受検料の比較的安い「英検」や「GTEC」が人気を集めそうな状況でした。

 

また、入試で4技能テストを使う場合に気になるのは「対策のしやすさ」です。市販教材の種類が多く、そして受検経験者のアドバイスが手に入りやすいテストのほうが受験生にとっては好都合。この観点からすれば、受検者数の多い「英検」と「TOEIC」の2つが候補となります。


「お金」「対策のしやすさ」をあわせて考えると、「英検」が軸になりそうな状況でした。

 

2019年7月:TOEICが撤退を表明


2019年7月2日「TOEIC」が撤退を表明し、これを利用しようと考えていた受験生に衝撃が走ります。


「TOEIC」「L&R」(リスニングとリーディング)「S&W」(スピーキングとライティング)が別々に実施される形態であり、大学入試英語成績提供システムに対応するのが困難。


これが日本で「TOEIC」を実施・運営する国際ビジネスコミュニケーション協会(IIBC)の発表で示された撤退理由です。


「TOEIC」が撤退したことが前例となり、その他の4技能テストを利用する予定だった人の中にも「もしかしたら撤退するのではないか?」という不安が生まれます。

 

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こちらの記事では「TOEIC撤退によって英検が軸になる」と述べさせていただきました。そのように考えた理由として「受検料」「対策のしやすさ」を挙げています。


しかしながら、実は、私たちの頭の中には「大学入試英語成績提供システムに対応するために積極的に動いている『英検』は、費やしたコスト的に撤退はしないだろう」という推測もあって、「TOEIC撤退によって英検が軸になる」と予測していました。

 

2019年9月:新型英検の予約金返金問題


大学入試英語成績提供システムに対応した新型英検(S-CBT)予約申込が開始。


試験会場確保のために支払う予約金(3,000円)について、「本申込をしなかった場合に返金されるのか」等が話題に。「英検」側が返金申込期間を設定すると公表し、その問題自体は解決したように思われました。


しかしながら、2020年4月からの新制度の運用についての不安はなかなか解消されません。そのような中、受験生・高校2年生は「英検」対策についても準備を進める毎日を過ごします。

 

2019年10月24日:「身の丈」発言

 

BSフジの番組での萩生田文科相の「身の丈」発言が大きな話題となりました。

 

英語民間試験について、経済的・地理的な観点から不公平ではないかという話の中で、萩生田文科相が次のように発言。

 

【経済的理由による不公平感について】

「それ言ったら、『あいつ予備校通っていてズルいよな』と言うのと同じだと思うんですよね。だから、裕福な家庭の子が回数受けて、ウォーミングアップができるみたいなことは、もしかしたらあるかもしれないけれど、そこは、自分の身の丈に合わせて、2回をきちんと選んで勝負して頑張ってもらえば」

 

【地理的理由による不公平感について】

「人生のうち、自分の志で1回や2回は故郷から出てね、試験を受ける、そういう緊張感も大事かなと思う」


萩生田文科相は「できるだけ近くに会場を作れるように今、業者や団体の皆さんにはお願いしています」「できるだけ負担がないように、色々知恵出していきたい」とも述べていましたが、文科相という立場格差を容認するような発言をしたこと、「身の丈」という表現を選択したことに大きな批判が生じました。


その後、10月29日の記者会見で、「身の丈」発言に関して撤回をし、「どのような環境下の受験生も自分の力を最大限発揮できるよう積極的な措置を講じる」と表明。


しかしながら、「身の丈」発言以降、英語民間試験利用の延期・中止論が非常に強くなってきました。

 

2019年10月31日:「GTEC」の会場等の概要発表


「GTEC」を実施するベネッセコーポレーションが実施会場や申請手続きなどを発表。


メインとなる「大学入学共通テスト版」では、大学や高校などを活用し、全都道府県の161地区に少なくとも1つの会場を設けると発表。

 

2019年11月1日:英語民間試験活用の延期を発表


英語民間試験活用のための「大学入試英語成績提供システム」の導入を見送ると発表。萩生田文科相によるメッセージを抜粋します。

 

「大変残念ですが、英語教育充実のために導入を予定してきた英語民間試験を、経済的な状況や居住している地域にかかわらず、等しく安心して受けられるようにするためには、更なる時間が必要だと判断するに至りました。


大学入試における新たな英語試験については、新学習指導要領が適用される令和6年度に実施する試験から導入することとし、今後一年を目途に検討し、結論を出すこととします。皆様が安心して、受験に臨むことができる仕組みを構築していくことをお約束します。」

 

この11月1日は、民間試験の成績を大学側へ送付するために必要な「共通ID」の発行受付日でもあったのですが、大学入試センター「共通ID発行申込」の中止を発表。


新制度がスタートするはずだった5カ月前延期が発表されるという異例の事態は、高校生やその周囲の人以外にも大きな話題となりました。

 

【影響】「どの大学を受けるのか」という受験戦略

 

英語民間試験の利用方法

 

すべての大学が「大学入試英語成績提供システム」を利用する予定であったわけではありません。延期発表直前2019年10月25日に発表された「『大学入試英語成績提供システム』利用予定大学の一覧(最終版)」には次の数字があります。

 

  • 利用予定大学数:629校(四年制大学538校(うち国立78校、公立78校、私立382校)、短大91校)
  • 利用予定割合:58.9%(四年制大学70.8%(うち国立95.1%、公立85.7%、私立65.1%)、短大29.5%)


そして、この「大学入試英語成績提供システム」の利用方法としては、次のパターンがありました。

 

  1. 出願資格として利用
  2. 点数化して加点(共通テストの成績に加点)
  3. 出願資格及び点数化して加点
  4. 一定水準以上の成績で共通テスト英語を満点とみなす
  5. 高得点利用(英語認定試験の成績を得点化し、共通テスト英語の得点と比較して高得点のほうを利用)


受験生が特に気にするのは、おそらく「出願資格か否か」でしょう。「英検○級に合格していないと受験すらできない」となれば、「英語以外の科目で点数を稼いで受かる」ということが不可能だからです。 また、英語民間試験を受けるために時間を使いたくない人もいるでしょう。

 

高校の証明書があれば・・・


「出願資格」にする場合であっても代替手段を認めるケースもあります。「高校の証明書でもよい」ケースです。


「この受験生は英検○級相当の英語力を有している」高校が証明すれば、英語民間試験の成績を提出しなくても出願できるということになります。これは重要なポイントです。


「英検」では「2級が高卒程度」とされています。高校の英語の単位を取得しているならば、つまり大学受験生であるならば、出願資格の鍵となる「CEFRのA2レベル(英検準2級相当)」をクリアしているはずです。


とすれば、「高校の証明書でもよい」大学を受ける受験生に対し、高校側が早い段階で証明書を発行すると判断すれば、合理的な受験勉強が可能となります。


そのため、実は、私たちは「今後、『証明書が発行されないケース』が生じるのか否か」について非常に注目していました。仮にそのように判断する高校があれば、時期によっては受験生の混乱が生じるのはもちろん、「その高校の英語教育が英検準2級に達するものではない」という社会的意味をもつからです。

 

鍵は阪大志望者の動向?


英語民間試験の利用についてさまざまな方法がある中で、「どの大学を受けるのか」という受験戦略の鍵となるのは「出願資格になるか否か」です。しかも、高校の証明書で代替されない場合には、英語民間試験の成績が今後を大きく左右することとなりますし、これにかかる時間的コストは受験生にとっては重要な問題です。


そのため、今回の延期発表がなされるの時点では、英語民間試験が必須となる大学の志願者数は少なくなるだろうと思われました。


ところで、「大学入試英語成績提供システム」を用いた入試が始まるのは来年度の予定でしたので、今年度の受験生には直接関係ないようにも見えるかもしれません。


しかしながら、「どの大学を受けるのか」という受験戦略に影響があったことは否定できないと思います。なぜなら、第1志望が来年度以降に英語民間試験必須となるならば、「今年度不合格だった場合、もう1年頑張ったとしても合格するのか」という不安が生じるからです。


その結果、「それならば英語民間試験が必須でない大学を受けて、それで『もう1年』となったとしても、それまで通りに頑張れば来年度には受かるだろう」という判断に至ることもあるでしょう。


また、今年度の高校3年生は、制度変更が有利になるか否かがわからないため、例年よりも「とにかく浪人したくない」と考える傾向が強く、すでにAO・推薦入試に切りかえていた人もいます。


大学入試は基本的に競争試験ですので、他の受験生の成績との比較によって「合格/不合格」が決まります。そのため、英語民間試験を必須とする大学を受けるはずだった人が流れてくれば、必須でない大学の難易度も上がり得ます。そのため、第1志望が英語民間試験必須ではないとしても、受験戦略上、「回避する」という判断に至ることもあるでしょう。


以上のことを考えると、「(延期発表前の段階で)英語民間試験必須であり、かつ、人気校(いわゆる高偏差値大学)」への進学を希望する受験生の動向は、多くの人の「どの大学を受けるのか」という受験戦略に影響します。

 

この意味で、「今回の延期発表によって大阪大学進学希望者の動向がどうなるのか」は気になるところです。


今回の延期発表を受けて、受験戦略を考え直すケースは少なくないと思われます。

 

【影響?】大学入学共通テストの英語


現行のセンター試験2020年1月が最後となり、次年度からは大学入学共通テストが始まります。もしかしたら今回の延期発表は、この共通テストの内容にも影響するかもしれません。なぜなら、共通テストの試行テストはすでに実施されているところ、これが英語民間試験の併用を前提に作られているからです。

 

センター試験と共通テストの比較


センター試験共通テスト「英語」は、形式がずいぶんと違います。


まず、リーディングとリスニングの比率が違います。

 

  • 【センター試験】リーディング200点:リスニング50
  • 【共通テスト】リーディング100点:リスニング100


センター試験ではリーディングとリスニングの比率が「4:1」だったのに対し、共通テストでは「1:1」となります。


また、リーディングで問われる内容も異なり、次の問題が消える予定です。

 

  1. 発音問題
  2. アクセント問題
  3. 文法問題
  4. 語法問題
  5. 語句整序問題


これらの問題が消えるのは、英語民間試験で4技能が評価される予定だったからです。

 

「発音・アクセント・文法・語法・語句整序」

 

上で示した1つ目と2つ目の「発音、アクセント」スピーキング能力を試すためのものと言えます。そして、3つ目、4つ目、5つ目の「文法、語法、語句整序」には、スピーキング能力とライティング能力を試す側面も強くあります。


紙媒体の大規模一斉テストという形式で「スピーキング」と「ライティング」を試そうと知恵をしぼった結果、これらが出題されてきたと言えるでしょう。バランスの問題はあれども、センター試験は4技能評価にも目を向けたテストです。


しかしながら、「発音・アクセント・文法・語法・語句整序」の問題は、「スピーキング」「ライティング」の力を試す側面はあれども、「発信能力を受信能力テストで試す」という無茶があったことは否定できません。そのため、英語民間試験を利用することとなったのだと思われます。


英語民間試験「スピーキング」と「ライティング」も試すことを前提にすれば、共通テストのリーディングでは、「英文を読む力」を試すことに集中できます。


ここまでの内容をもとにして、センター試験と共通テストの英語を再度比較してみましょう。

 

  • 【センター試験】リーディング(「発音・アクセント・文法・語法・語句整序」あり200点:リスニング50
  • 【共通テスト】リーディング(「発音・アクセント・文法・語法・語句整序」なし100点:リスニング100

 

「共通テスト」の「センター試験」化?


11月1日の延期発表によって、「英語民間試験の利用」という共通テストの前提条件がなくなりました。


予定されている共通テストのみが課されるとなれば、現行のセンター試験よりも「スピーキング」と「ライティング」が軽視されている状態になると言えるでしょう。「発音・アクセント・文法・語法・語句整序」といった「スピーキング」と「ライティング」の力を試す問題が消えてしまうからです。


萩生田文科相による延期発表の中には「今回、文部科学省としてシステムの導入見送りを決めましたが、高校生にとって、読む・聞く・話す・書くといった英語4技能をバランスよく身に付け、伸ばすことが大切なことには変わりがありません」という言葉も含まれており、4技能を評価する方針自体は維持されています。また、「グローバル化が進展する中で、英語によるコミュニケーション能力を身に付けることは大変重要なことです」とも述べられており、英語での発信力(スピーキング能力とライティング能力)の重要性が重ねて強調されているように解釈できます。


この大臣メッセージを素直に受け取ると、英語民間試験の利用を延期するとしても「スピーキング」と「ライティング」の力を(いつになるかは別として)大学入試の場面で評価したいはずです。


そうであれば、英語民間試験の利用を延期するならば、共通テストにおいても「発音・アクセント・文法・語法・語句整序」といった「スピーキング」と「ライティング」の代用問題を出すことにも意味があるでしょう。


センター試験と同様に、これらの問題をリーディングの中に含めるならば、共通テストの「リーディング:リスニング=1:1」という比率を変更しないと、「英語4技能をバランスよく身に付け」(上記大臣メッセージ)との整合性がとれないように感じられます。


そして、その「1:1」の比率を変更するとなれば、その比率によっては現行のセンター試験との違いがほとんどないようになるかもしれません。


2019年11月5日の萩生田文科相の記者会見おいて、現時点では共通テストの英語配点(リーディング100点、リスニング100点)を変更しない考えであると発表されました。しかしながら、今回の延期発表という前例がありますし、近い将来に入試を受ける予定の人やその周囲の人は注目し続ける必要があると思います。

 

【提案】4技能評価時代にふさわしい英語テスト


今回の延期発表によって、しばらくの間はかつての精読重視の英語が注目を集めると思われますが、基本的には、英語の4技能評価の流れ自体はこれからも続くと考えられます。国際化の流れを無視した英語教育によって、これからの人たちが苦しむのを甘受しない限りは。


「大学入試英語成績提供システム」は見送られましたが、AO・推薦入試のように、大学が個別的に英語民間試験を利用すること自体はあり得ます。


また、英語民間試験を利用しなくとも、大学が独自のテストをつくって4技能を評価することもあるでしょう。

 

4つ必要? 3つでも・・・


入試という枠で英語4技能をテストする難点としては、試験時間が挙げられます。各技能を試すのに1時間かかるとしても「1時間×4技能=4時間」となります。


英語民間試験とは異なり、大学入試では「英語以外の科目」も重要な評価対象ですので、他科目の時間休憩時間も考慮しなければなりません。こういったことを考えると英語4技能をテストするとなれば、長丁場の入試になってしまいます。


基本的に大学入試は地域的な限定がありませんので、近隣の人だけが受験するというわけではありません。あまりにも長丁場の入試になってしまうと、宿泊者数が増え、宿泊施設の受け入れ態勢の問題も生じかねません。また、1年に一度、入試のときにだけ宿泊者数が極端に増えるならば、その時期だけ宿泊料金が高値になることもあります。


入試という枠で英語4技能を評価するならば、試験時間を短くするための工夫も必要でしょう。


そこで、思うのが「そもそも4つの技能をテストする必要があるのか」ということ。


リーディングリスニングライティングの力があるならば、スピーキングの力も備わっていると言えるのではないでしょうか。

 

  • リーディング:語彙など、英語の基本知識
  • リスニング:音声情報としての英語把握力
  • ライティング:英語をアウトプットする力


この3つの力を評価できれば、わざわざスピーキングのテストを実施する必要性は大きくないような気がします。


英語4技能のレッスンをしてきた経験から言えることは、リーディングとリスニングの基礎力をもっている人であれば「書ければ話せる」ということ。各種英語民間試験の対策講師をしてきた経験からも「読む・聞く・書く」のスコア「話す」のスコアに影響していると感じます。


確かに「書けるけれども話せない」ケースもありますが、それは瞬発力と性格の問題であって、そのようないわゆる「トーク力」的なものは、入試で試す必要性に乏しいのではないでしょうか。


大学が独自で行う入試の中で、4技能時代に合うテストをするならば、「スピーキング」以外の3技能にとどめるのが現実的だと思われます。


大学のカリキュラムの中で、それぞれの学ぶ内容に応じた英語でのディスカッション科目必修にし、単位認定の中でスピーキング能力を評価すれば高大接続改革の理念にも合うのではないでしょうか。

 

「読む・聞く・書く」の一体型テスト

 

「読む・聞く・書く」のテストをするとしても、それぞれを別に実施する休憩時間も発生しますし、それなりに時間がかかってしまいます。


大学入試の役割もあわせ考えると、「読む・聞く・書く」1つのテストで評価するのも良策だと思います。


そのようなテストとして挙げられるのが、ライティングテスト統合型問題(Integrated Task)です。

 

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参考となるのが、東京外国語大学TOEFL iBT

 

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  • 空欄のある英文のレジュメがあり、英語の講義を聞きながら空欄を埋め、その内容の要約と意見を英文で書く(東京外国語大学)
  • 英文を読み、英語でなされた同じトピックのレクチャーを聞き、レクチャーの内容を中心に英文で要約する(TOEFL iBT)


基本的にはこれらの問題はライティングのテストですが、リーディングやリスニングの結果を要約するため、「読む・聞く・書く」の力総合的に評価されるものになっています。もちろん、ライティング能力がないと答案を作成できませんので、要約の代わり「読めたのか/聞けたのか」を試す選択問題にしてもよいかもしれません。

 

  1. 英文を読む(リーディング)
  2. 講義を聞く(リスニング)
  3. リーディングとリスニングができたかを試す問題を解く(要約問題 or 選択問題)
  4. 自分の意見を書く(ライティング)

 

受験対策の中で実施している一例


上記の「読む・聞く・書く」の一体型テスト授業の中で取り入れた一例を紹介します。


まず、英語の早期教育について「賛成か反対か」という議論英語で用意。

 

  • 第1パラグラフ:議論の前提を示した英文
  • 第2パラグラフ:賛成の立場の意見が書かれた英文
  • 第3パラグラフ:反対の立場の意見が書かれた英文


そして、第1パラグラフと第3パラグラフの英文をリーディング課題とし、第2パラグラフはリスニング課題にします。第2パラグラフが大きな空欄になっている状態を想像してください。

 

  • 第1パラグラフ:リーディング
  • 第2パラグラフ:リスニング
  • 第3パラグラフ:リーディング


第1パラグラフを読んだ後第2パラグラフを聞くことで、どのような話題なのかをある程度把握した状態でリスニングすることとなります。


実際に英語を使う場面においても、ほとんどの場合は「何の話をしているのか」がわかっている状態ですし、「読んだ後に聞く」という流れは悪くないでしょう。


そして、「賛成か反対か」というシンプルな議論だからこそ、議論の把握力ではなく、英語の運用能力そのものを問う出題となります。また、「賛成か反対か」という議論は全体像を把握しやすいため、その中で使われる語彙レベルを上げやすく、入試では重要となる「点数のばらつき」をコントロールすることも可能となります。


さらに第3パラグラフ(反対の立場の意見)を先に読み、第2パラグラフ(賛成の立場の意見)のリスニング時に耳にするであろう内容を推測することも重要です。


第3パラグラフには「英語の早期教育に賛成である」という立場(第2パラグラフ)と反対の意見、それをサポートする理由が書かれるわけですから、第2パラグラフのリスニングで述べられる内容は「英語の早期教育に賛成である」という主題と、その主題を説明する理由具体例であると推測することができます。


リスニングにおいてこの推測する力話の展開を予測する力は極めて重要です。それは日常会話においても話の展開を想定しながら相手の話に耳を傾けることで適切な返事を述べ、相槌がうてるのと同じことだと思います。


第1~第3パラグラフの把握を経た上で、リーディング能力とリスニング能力を試す問題(要約問題や選択問題)とライティング能力を試す意見論述問題を課せば、1つのテストで3技能を評価することが可能です。


この形式のテストは、受験対策の中で実施しているものなので、授業にも使っています。


その際には、英語のレベルを上げた第1パラグラフ(議論の前提)を宿題にしたり、スピーキングの練習として自分で作成し添削をして整えた英文を暗唱し発表する場をレッスン中に設けています。


(吉崎崇史・鈴木順一)

 

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