こんにちは。美術作家の杉本圭助です。
今回は籠(かご)についてお話ししようと思います。
まずは籠に興味を抱くまでのお話から始めます。
現代人の目線とは?
僕は“人間”をテーマとして制作をしています。
2013年頃、新たな平面作品のシリーズを制作するために考えを巡らせていました。
何か対象を持つ絵のようなものではなく、絵自身のあり方と技法に現代人の目線や考え方を取り入れれないかと模索していました。
そして、現代人が物事を見る際の目線として特徴的なものを3つ考えました。
(1)フォトショップ的レイヤー目線
これは主にフォトショップのような画像編集ソフトが普及したことによる目線だと思います。
フォトショップでは1枚の写真を色や選んだ対象ごとの層に切り分け、それらの色を明るくしたり、像をくっきりさせたりして編集していきます。
画像という対象を1つのボリュームとして捉えるのではなく、特定のルールにのっとった層に切り分け、それぞれの層に対して考察をする。そしてそれらを最終的に1つのものとして復元してゆく。
数学で言うところのx軸、y軸や、物理学の運動方程式のような、軸という概念をベースにした物事の見方です。
(2)断面の目線
物事を見る時に表面だけでなく断面や成分といった要素をイメージするというのも現代的な特異な目線かと思います。
食品を選ぶ時に中に入ってる物を気にするのもこの目線ですし、漫画の描写でも断面図が描かれている事が多くなってきました。洋服のデザインでもあえて裏返したようなデザインが見受けられたりもします。苺のショートケーキ1つとっても、ホールの図よりも断面を見せた物が多く見られます。
(3)ピクセル
様々な物を実物ではなく画面上で見る事が多くなっています。
僕らは何を見ているのでしょうか?
解像度の違いはあれどマス目を見ているだけではないでしょうか。
点と言うのは小さなまん丸の単位でそれが集まった物が線だと数学で習ったことがあります。だからこそ斜めの線や曲線というのが存在しており、そこから豊かな感情を表現できる物ではないかと考えています。
その点が、小さな四角形のますに置き換わってきています。曲線が曲線ではなくなっているのです。これも特異な目線だと思います。
平面作品シリーズ“マネキン”
これらをベースに作られたのが“マネキン”という平面作品のシリーズです。
(先日の記事の中でプレスリリースをご覧になっていない方は見てください。)
マネキン 1-1 / Mannequin 1-1
2013
acrylic, medium on wood panel, engraving
60.5 × 41 cm (23 3/4" × 16 1/4”)
©︎Keisuke Sugimoto, Courtesy of Kodama Gallery
絵具を50層ほど重ねて(途中でいくつかの色の層や線が入っています)それを彫刻刀で彫り断面を見せる。裏返したような感覚です。今も継続して追求を続けている技法のはじめとなった物です。
この時、対象を何にするか悩みました。
平面作品である以上、何を対象に取るかというのは大切な事なのですが、新たな技法の確立や、現代の物を見る目線の表現を目指していた自分としては対象が主張しすぎる事は避けたかったです。
そして、導き出した答えがグリッドやプロポーションでした。これらは自分が考えた上記の事を表現するのに適切な対象でした。
美しい籠を見つけました
とすると今度は“いいグリッド”を追求してみようとなります。
日々の生活の中で無意識のうちにいいグリッドを探し始めます。いろんなところに潜んでいます。
探していくうちに縦、横のマス目のようなものよりも立体的に縦横の線が絡み合ったものがいいなと思うようになりました。例えば、布の織りめや籠の編みめです。
それらの資料を読み漁っていく過程で編みめ(グリッド)が非常に美しい籠を見つけました。これは手に入れて毎日眺めたいと思いました。
それは秋田で作られているあけびの蔓を使った籠です。
ー 後編へ続く
(美術作家 杉本圭助)