こんにちは。美術作家の杉本圭助です。
前回の記事をお読みで無い方はこちらから。
一度会いに行ってみよう
あけびの籠(かご)は長野や山形などいろんなところで作られているのですが、秋田の中川原さんという方が作られている籠に惹かれました。いくつかの民芸のお店を回りましたが、どこにもなく、聞けばこの方大人気の職人さんのようでなかなか手に入れるのが難しいとのことです。
それなら一度会いに行ってみよう。買えなくても作っている現場を見たい、その人に話を聞きたいと思いました。
そこからは必死です。
県庁や市役所に問い合わせ、人、人を辿り、なんとか連絡先を知ることができました。
電話をしてみますが、繋がりません。もしかしたらこういう電話がたくさんかかってくるからあえて電話を取らないようにしているのだろうか?と悪い想像が広がります。何度かけても繋がりません。あ!!何と市外局番を間違えておりました、、、
正しい番号でかけなおします。
緊張の一瞬です。
電話がつながりました。
あきたなまりの優しい声。嬉しかったです。ご自宅にお伺いする約束ができました。お会いできると思うと胸が高鳴ります。
伺う前日は一睡もできませんでした。ちょうど台風が来ていて飛行機が飛ぶかどうかの心配と、高揚感からです。
台風の影響はそれほどなく、無事、秋田に到着しました。レンタカーを借り、ご自宅を目指します。
写真で見た家がありました。窓からは中に吊っている乾燥中のあけびの蔓が見えます。
中川原さんと奥様(母ちゃん)にお会いし、籠の材料や、作っている工程を見せていただきました。
そして、籠もゆずっていただけました。
線のどれもが“動きそう”な籠
この方の籠のチャームポイントはいくつかありますが、けっこういろんな本に中川原さんの細かいことは書いてあるので、僕の目線で気に入ったことをお話しします。
“胴に弾けるような透明感があり、持ち手と縁が浮いているように見えること”
籠の丈夫さや耐久性は縁で決まります。この部分がしっかり編まれているかどうかが籠の良し悪しを決めます。籠にかかる力をうまく分散させるために、この部分が美しく編まれている事は重要です。太さが違ったり、癖が違う蔓をうまく選び、丁寧にしっかりと編んでいかないといけません。
蛇腹まきという技法なのですが、その編みめが非常に美しい。そして持ち手はシンプルながらしっかりと丁寧に編まれています。これは使ってからわかったことなのですが、中川原さんの籠の持ち手は非常に緩みにくいです。もう5年ほど使っていますが、全く緩んできません。
(余談ですが、籠やざるを選ぶときは縁の部分にあまり歪みがなくしっかりとしている物を選ぶと長持ちします。)
下の胴の部分ですが、驚くほど軽い見た目で、一見するとグシャっと壊れそうです。しかし、非常に丈夫です。
蔓のひしめき具合や立体感は僕の理想とするグリッドの1つでした!
籠を形成する線のどれもが“動きそう”なのです。
なぜなら、一般的にこのような手提げ籠は型を用いてそれに添わせて編んでいきますが、中川原さんは蔓と対話しながら手の感覚だけで編んでいくからです。
そして、蔓同士が絡み、ひしめき合う様は蔓や素材というよりは力が編まれている様子にも見えてきます。綱渡りをする道化師を見るような絶妙な緊張感、よくいう緊張の糸のようなものを感じることができます。
力のような目に見えないものを作品に表現するという事は、この頃の僕の制作において、考えの基盤になっていたものなので、この籠を見てピンときたのかもしれません。最近では、力を視覚化したもので言うと、組織図や番付表に非常に興味があります。そして、力の解釈と分析の歴史を描いた物理学は勉強中です。
話がそれましたね。
職人さんを訪ねる喜び
籠もさることながら中川原さんと過ごす時間は本当に楽しいです。
それ以降も何度かお訪ねしています。毎回、行く旨を連絡すると“まんまいるか?”と聞いてくれます。母ちゃんが作ってくれるご飯や秋田のお酒は最高です。レストランや店で食事をするのも良いのですが、地元のお母ちゃんのご飯がその土地を楽しめる最高の食事だと思います。
ある時は中川原さんが山で採取してきた“あわっこ”というきのこが出てきました。とても美味しく、毎回リクエストするのですが、ない時もあります。お祭りが好きな方なので、僕が酔っ払って河内音頭を踊ると非常に喜んでくれました。
よく家の近くを一緒にお散歩するのですが、その時に昔話をしてくれます。
中でも印象的だったのが神社でのお話です。家の近所に立派な神社があります。中川原さんが子供の頃、学校から帰るとお母さんと一緒に神社の参道へ杉の葉を拾いに行っていたそうです。これは燃やしてお風呂の燃料にします。
毎日、親子で山を上り、拾いに行っていた光景は、現代社会に必要なもののような気がします。生きるためにしなければならない事とはいえ、親と子が時間を共有することは1つの愛情表現です。
これをきっかけに籠そのものももちろんですが、職人さんを訪ねる喜びを知ります。そこから同じく籠好きの友人と籠を巡る旅をしますが、そのお話はまたそのうち。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
(美術作家 杉本圭助)