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現代に必要な「共生」とは何か ー 「司書」さんから学んだ「共生」を「共生学」から見直す(2)

Wさんによる卒論の再考察記事です。

 

 ↓ 前回の内容 ↓ 

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前回大学生当時のことを振り返っていただいたのですが、今回は卒論執筆から7年を経た現在の視点で再考察してもらいました。

 

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卒論の再考察 ー「共生学」から現代の共生を考える

 

前回、卒論を書いた当時のことを振り返りました。当時の考察の内容は、省略します。不十分な点が多いのと、私が学部生として書いたのは7年前のものだからです。当時の状況図書館の取組み私の理解当時覚えた感覚は過去のものであり、7年間でこれらは全く新しいものに変化していると思っています。


現在コロナウイルスにより世界中の、地域の図書館博物館などはすべて数ヶ月間閉鎖されていました。この先もアクセスに制限が出ると思います。


どんどん、かたち変化していくでしょう。


ここで現在の状況も踏まえ、共生の在り方再度、考察してみたいと思いました。

 

学問としての「共生学」

 

いま「共生」について考えること重要性が増しています。

 

私は今回の再考察のため、ある1冊を選びました。


共生学宣言​ ​初版発行年月:2020年03月


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環境共生、人間共生、多文化共生など、「共生」に関するさまざまな個別研究が広がるなかで、「共生学」という新たな学問の開拓​に挑戦する。「他者との出会い」「グローバリゼーション」という基礎的概念から出発し、高齢者、食と健康、フェミニズムと地域史、性教育と学校、国際協力、宗教と科学技術をめぐる共創、災害復興とボランティア、死者、潜在的な他者、植物といった共生にまつわる諸課題への実践を包含・体系化し 「共生のフィロソフィー」「共生のサイエンス」「共生のアート」として整序する。 大阪大学大学院人間科学研究科が宣言する「共生学」とは何か。 『共生学が創る世界』(2016年刊)発展編。

 

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この本は大阪大学の出版で、大学院進学を考える層大学院1年生に向けて書かれた教科書です。この1冊の理解の引用となりますが、ここから再考察をします。

 

「共生の定義」


「4つの共生」のうち、私のテーマは「人と人との共生」(共生学宣言: p.9)というものに当てはまります。


加えて、以下のような暫定的な「共生」の定義がありました。


共生とは、民族、言語、宗教、国籍、地域、ジェンダー、セクシャリティ、世代、病気・障害等をふくむ、さまざまな違いを有する人々が、それぞれの文化やアイデンティティの多元性を互いに認め合い、対等な関係を築きながら、ともに生きることを指す(共生学が創る世界: p.4)。


共生学が目指すモデル​は、このようなものでした。

 

  • ①:A + B → A' + B' + α


また、共生とは他にも表し方がありました。

 

  • ②:A + B → A
  • ③:A + B → A + B

 

が意味するのは、社会学でいう「同化主義」


Aが支配する社会マイノリティBが入ってきたとき、BAがよしとする価値観や生活様式を受け入れ、それになじみ、Aのように振る舞うことを余儀なくされる【A + B → A】


が意味するのは、「多文化主義」あるいは「文化多元主義」


マイノリティBは、Bであってもよい(あり続けてもよい)という考え【A + B → A + B】。これはかなりのバリエーションを考えることができるのだが、BはBで存在することはできるものの、Aとの接続や交流は図られず、孤立したままである事態も考えられると、それは「分離主義」となる。


共生学が目指す①のモデル【A + B → A' + B' + α】は、Aも変わり(A’)Bも変わり(B')、そのプロセスにおいて新たな価値なり、制度なりが生まれる(α)(共生学宣言: p.10)。

 

共生のための基本的なツールは「会話」

 

共生の基底に、「会話」を置くこのアイデアは、問題の1つの出発点を与えてくれる貴重なものとして書かれていました。


本書で引用されていたもので印象に残った箇所を紹介します。

 

会話としての正義がコミュニケーション的共同性への思想に内在する

『話せばわかる』という楽観主義や、その裏返しとしての

『分かる者とだけ話そう』という排除の論理、さらには

『分かればもう話す必要はない』という効率主義にコミットするものではないことは既に明らかであろう。

それはまた『話し合ったら文句を言うな』という手続き的正義とも発想を異にする。

会話としての正義の発想を標語的に表現するとすれば、『話し続けよう』である。

それは会話を正義の問題の決定手続きとするのではなく、むしろ会話という営為をパラダイムとする人間的共生の形式そのものを擁護さるべきものとし、その持続を可能にする条件として正義を構想するものである。


井上達夫(1986)『共生の作法ー会話としての正義』創文社

 

「学問としての共生学」ー Kyosei studies

 

共生に向けて学問的営為を積み重ねていくことに、Kyosei studiesの志があり(共生学宣言::p.12)、Kyosei studiesの最大の特徴は、「課題解決の学」という言葉で表されます(共生学宣言: p.13)。


カール・マルクスの言葉が引用されていました。


問題なのは「世界を解釈することではなく、変革することだ」


この学問では世界をフィールドに、さまざまな社会の課題解決に向けた「プロセス」に重要な焦点を当てています。

 

司書さんから学んだ共生のデザインを考え直す(直したいけれども・・・)

 

遠隔ではできない、対面会話の重要性

 

他者との距離を保つことが、これからの社会ルールになりそうですよね。これを忘れて変わらず会話をし続けるのであればよいですが、距離感キープを意識することは大切です。この条件をもって、私たちは会話をしていくことになります。


緊急事態宣言部分解除された日、私は本を受取りに図書館へ行きました。スーパーコンビニのカウンターで見かける透明なシートが、なぜかどこよりも分厚く、白っぽいので司書さんの顔ぼんやりとしか見えませんでした。

   

卒業論文を書く前、インターン中にみた地域住民との交流の光景は、実に感慨深いもので、インパクトが大きかったです。


当時を参考にすると、映像を配信するかたちでのにほんご学習、読書会では、みんなでの学び合いっこ(お兄さん、お姉さんが年下の学年の子たちの面倒をみながら、にほんごを学び合うスタイル)は、なかなか難しくなりそうです。


さまざまなところに住んでいる、外国にルーツをもつ子どもが、親も含め、一箇所に集まる機会、イベントごとをもつ。その場を地域の主体となって提供していたのは図書館であり、その日を楽しみにしていました。そこから見出される社会問題はたくさんあります。


日本で生きるなかで、自分たちのことを伝え合える機会もかなり制限され、図書館がクッションとなっていた部分だけ、心のケアの必要性も増えるかもしれません。この社会に共に住んでいる一人として、この社会に住むことについて心の負担となるものが心の中に停滞してしまうと思います。


何か、共生を可能にするためのサービスは戻らないだろうか。これから図書館では、地域の多文化共生に向け、どういったことを市民に提供できるだろう。。


もちろん、共生の信念をもつ熱心な司書さんたちが賢明に考え、工夫してサービス提供を続けてくれると信じています。 実質的な「共生の手助け」となるようなサービス...徒然書きながらもまだ浮かんできません。考え直せていませんね。

 

消えることのない差別、まだまだ社会の課題解決ができていない「共生学」


テーマとは外れますが、現在のコミュニケーションのツールで用いている私たちの(エセ)会話。先ほど紹介した井上氏の引用を改めて熟読すると、よりよい共生を実現させるための会話とは実に遠いものだなと感じることが多いです。


これは多文化共生での話だけではなく、もっと目の前の人と人との共生レベル世代間、地域間、人種間等の共生レベルでの感覚です。


コロナ渦中、胸の痛むほどの差別問題がたくさん溢れていました。


「これだからアホな若者は。」

「医者にコロナうつされたくない、同じバスに乗ってくるな」

「街でアジア系を見かけたら、ボコボコにする。」


こういった世界規模での未知のウイルスがまわったために、昔から研究されている心理学でもありますが各自の所属グループ(職業、年齢、地域、性別等)ごとの差別形成がもろに浮き出て見えてしまっていた日常でした。


繰り返し記載となりますが

 

共生とは、民族、言語、宗教、国籍、地域、ジェンダー、セクシャリティ、世代、病気・障害等をふくむ、さまざまな違いを有する人々が、それぞれの文化やアイデンティティの多元性を互いに認め合い、対等な関係を築きながら、ともに生きることを指す(共生学が創る世界:p.4)。


共生学の学問のは、この共に生きるための課題解決に向けた「プロセス」


理想モデル【A + B → A' + B' + α】となるような社会に還元できる研究をしていく、重要性が非常に大きい学問だと改めて実感させられました。


※ 関連図書

「共生学が創る世界」​初版発行年月:2016年03月

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人は一人だけでは生きられない.かといって,人がしっかり結びついていた古い共同体は戻ってこない.ばらばらの状態で世界を寄る辺なく漂う現代人にとって,生きる意味はどこにあるか.本書は,大阪大学大学院人間科学研究科の教員たちが,学生に向けて,人とモノ,人と自然,人と人,さらには人と死者をつなぐ共生(共に生きる)の方向に人間再生の可能性を求め,これからの生き方と新しい文明のあり方を探る.


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こちらは、新たに大学に入学してくる学部生たちに向けた本で、「共生学」の入門書の位置付けです。今回選んだ共生学宣言は、この続編で「共生学」のマニフェスト本です。興味のある方は手にとってみてください。


(W)

 

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