効果的な集団討論を
たくさんの人が存在し、その考え方や感じ方がそれぞれ違っている。だから、世の中おもしろい。
これまでロジカルノーツではさまざまな記事を公開してきましたが、その根底にある考え方は共通しています。
いろいろな考え方や感じ方があることのイメージ力。これをトレーニングする絶好の機会が集団討論でしょう。
集団討論をするためには準備が必要です。
- 複数人の参加者
- テーマ
少なくともこれら2つの用意が欠かせません。
「参加者の目的意識(何のために集団討論をするのか)がある程度共通していること」や「事前に共通の資料を読んでおくこと」といった条件も満たしていれば、議論は活性化しやすいでしょう。
これまで本記事執筆者はいくつかのオリジナル問題を作成し、それを用いて集団討論のレッスンを行ってきました。今回の記事では、そのうちの1つを紹介したいと思います。
<課題>
あるカラオケ店の店主から次の相談をされました。
私はある地方都市でカラオケ店を経営している者です。店舗の周辺で大きな開発の予定はありません。先月末の時点で、徒歩圏には競合店が1つあり、電車に乗って隣の駅まで行くとその周辺にはカラオケ店が3つあります。当店を含め、近隣のカラオケ店の客入りは安定しており、経営難に陥っているという話は聞いておりません。
営業時間は午前11時~翌5時。当店のカラオケルームの数は10で、1部屋最大5名まで利用いただけます。アルコールと食べ物に関しては別料金をいただいておりますが、お茶やコーヒー等の飲み物については飲み放題にしています。高校生の方から高齢の方まで幅広く利用していただいています。
数年前から「ひとりカラオケ客」が増え、カラオケルームを「複数人客」にあまり使えていない状況です。15年前の開店以来、当店は「ひとりあたり1時間500円」という料金設定でやってきており、「ひとり客」よりも「複数人客」のほうが利益になりますので、正直なところ、「ひとりカラオケ客」の割合を小さくしたいという気持ちがあります。
そこで、料金体系の見直しを検討しているのですが、案が2つあり、ご意見を頂戴したいと考え、この度、相談させていただいた次第です。
- 案①:「ひとり客」700円/時間、「2人以上」ひとりあたり500円/時間
- 案②:「ひとり客」500円/時間、「2人以上」ひとりあたり300円/時間
ルーム数の変更等をする経済的余裕はありませんが、大きな予算をかけないかたちでの「新規サービス」を行うことも視野には入れていますので、何かよいアイデアがあれば併せてお教えいただけますでしょうか。
案①派と案②派に分かれて、討論をしてください。なお、「新規サービス」を提案する場合には、「そのサービスを実施するならば、自分の立場のほうが効果的である」という話も忘れずに。
<実施方法>
実際に行ったレッスンでは、何度かの修正を経て、最終的には次の方法で集団討論を行うようになりました。参加者数は10~20名でしたので、その人数を前提とした方法です。
- 案①と案②の好きなほうを選択(ただし、極端に人数の偏りがあった場合には調整)
- 各グループの中で次の3つの役割を決める話し合いを実施(約5分間)
- 作戦会議の司会役
- 作戦会議の書記役
- スパイ役
- 各グループで作戦会議(約30分間)
- 最初の10分間は相手グループのスパイ役が同席
- 次の5分間でスパイ役が持ち帰ってきた情報をグループ内で共有
- 残り15分間、討論の戦略を決める話し合い
- 集団討論を実施(約30分間)
- 5分間ほどの休憩の後、次は立場を変えて集団討論を実施(約30分間)
<意図>
いかがでしょうか。
集団討論の経験者からも「えっ…こんなことしたことない」との声を聞くことがほとんどでした。特に、「スパイ役」の存在は珍しかったようです。これによりゲーム性が高まり(時には相手チームを撹乱するスパイ役も登場!)、レッスン後も討論の熱がなかなか冷めない盛り上がりでした。
効果的な集団討論を行うためには、「参加者の積極的な発言」が欠かせません。これを促すための工夫はいくつかあり、今回紹介した課題と実施方法では、次のようなことを考え、「積極的な発言」が生まれるようにしています。
<課題>発言のきっかけを多くする
- 「カラオケ店」という身近な話題
- 「ひとり客/複数人客」や「値上げ策/値下げ策」といった対比概念
- 多様な具体的事実が含まれたケース
- 根拠にできる数字
- 「店主の利益」という明確な目的
<実施方法>多様な話し合いの場
- 役割決めの話し合い
- 外部の人(スパイ役)がいる中での話し合い
- 外部の情報を共有する話し合い
- 戦略決めの話し合い
- 立場を変えた話し合い
これからの教育に必要なもの
ひとりひとりの価値観が多様化し、また、国際化が進んでいく中で、「これだけが絶対正しい」と言えるものは少なくなっていくことでしょう。そうであれば、「『正解』を前提とする問題に対処するスキルを向上させること」だけが教育の目的であってはならないように思えます。
「正解」を前提としない問題に対処するスキル。
これをトレーニングするのに集団討論は有効です。しかしながら、流動性の高い「会話」が核になりますので、そのレッスンにはなかなか手を出しにくいという事情もあります。
もし集団討論のレッスンにお悩みの方がおられましたら、一度、今回紹介させていただいたレッスン案を試してみてはいかがでしょうか。そして、感想や改善案等がありましたらロジカルノーツの facebook 、あるいは、 Instagram 経由でお知らせいただけるとたいへん嬉しいです!
2020年度の大学入試改革を機に、集団討論のレッスンについて多くのアイデアが全国各地で考案されることでしょう。そのアイデアが少しでも多く共有されることを願うばかりです。
(吉崎崇史)