2020年1月19日(日曜)に「【読書会】マクニールの『世界史』を読む」の第1回目を実施しました。
同じ言葉に触れたとしても、その読み方は人によって違います。
そして、その違いは、読み手の過ごしてきた時間が反映されたものです。
どのように感じたのか、何を考えたのか。
これらを共有することで、各自固有の世界観を発見する基礎資料の1つになればと思います。
初回の内容は、シュメル文明以前について。発表者は、ロジカルノーツSenior Administratorの吉崎崇史。
この発表内容に関して、美術作家の杉本圭助さんからコメントが届きましたので、まずはそれを紹介させていただきます。
吉崎さんのこの記事の内容がすっと自分の中に入ってきた。ということはシュメルの時代も現代も根本的には変わっていないのではないのだろうか?
シュメル以降、現代に至るまで色んなものが発明されてるのかもしれないが農耕や宗教、共同体といった物は今の自分達の周りにも大きな意義を持って存在している。
長い歴史を持って進化(?)してきてるはずなのに基盤の共通項は変わらない。
進化してきているならもっとわけのわからないものがあっていいはず。この時代にあって今にないもっと大きなものが存在してもいいはず。
所詮、人間は人間でしかないのではないかと感じた。
(美術作家 杉本圭助)
以下では、吉崎の発表後に交わされた言葉を一部紹介させていただきます。
シュメルの神学体系について
「私はシュメルの神官が神学体系を入念に作りあげた点に注目しました。自らを正当化する上で体系的な説明が有効だったということは現代社会においても共通するものだと思いました」
「私も同じように感じました。知識ある者が社会の中で上位づけされる構図は、現代においても同様であり、それが文明のはじまりとされるシュメル文明からあったのかと。特に、未来についての予言につながる知識が優位性の要因になる点は、まったく現在と同じだなあと」
「その点に関して私が思ったのは、ネガティヴな出来事の予言というものが鍵だったのかということです。『よくないこと』が起こるぞ!という予言が示された後の展開として、『よくないこと』が発生したか否かで場合分けをしてみると、発生した場合には『予言があたった』ということになり、発生しなかった場合には『神官がそれを防いだ』ということになって、いずれにせよ神官の説得力はあがりますよね。でも、これが『よいこと』が起こるぞ!という予言だった場合には事情は違うのかなと。『よいこと』が発生しなかった場合には、『それを防いだ』という説明は反感につながるわけで」
「『よくないこと』の予言に関してですが、シュメルの神学体系の中では、雷の神であるエンリルが災いをもたらすとありますね。これも『よくないこと、災い』に関する予言が鍵だったという仮説の根拠になるのかもしれません」
「なんで雷なんだろう? 他にも災いにつながる自然現象はあるのに」
「リトアニアでも雷は特別な神なんですよ。雷が落ちると作物がよく育つという事情があると聞いています。災いだけでなく、収穫の象徴にもなる二面性が雷にはあるのかなと思います」
「そう言えば、『稲光』とか『稲妻』とか、『稲』を用いた雷の表現は日本にもありますね」
「ところで、なんで『暦の専門家としての神官』という存在が発生したんでしょうか? 皆が農作業に従事している中で『私は天体を観察するので、農作業からは離れる。そして、皆のために天体を観察しているので、食糧は頂戴ね』といったことを認める社会だったのだろうか」
「いくらかの宗教を参考にしてみると、天体と神はリンクづけされているものが多く、私はその点に特別な疑問は感じませんでした」
「なんで天体と神はリンクづけされるんでしょうか?」
「わからないからでしょう」
「私は手が届かないからだと思います」
「シュメルの宗教についての記述を読み、私は、ギリシャ神話などの多神教と似ている部分が多いと感じました。人間が宗教に求めるものは似てくるのかと再確認できました」
共同体意識について
「発表の中で共同体意識に関するお話がありましたが、その共同体をつくる所属意識というもののあり方について考えたいと思いました。シュメル文明では統一帝国樹立が大きな課題であって、それがうまくいかなかったことが崩壊の要因でもあったからです。シュメルについて考える上では避けて通れない問題だと考えます」
「当時の社会を前提に考えると、実利的な関係性が基礎にあったのかと。自分の利益が大切で、でもそれだけだと社会は成り立たずということでしょうか。共同意識は情報が共有されるのが条件だと思います。当時はまだ自分の利益のためのコミュニティという面が強く、現代の感覚とは違う共同体なのかもしれませんね」
「私は当時の共同体意識について考えるヒントが神学体系だと思っています。神々の共同体の決定が個別の神の考えよりも優先する。これは当時の共同体社会を反映したものかと」
「その点に関してなのですが、最初から神々の共同体を前提とする多神教だったとは言えないのかもしれないと感じました。各地に神がいて、多数のエリアが1つのまとまりになる過程で、多神教が発生したのではないかと思います」
「私は狩猟民が共同体意識をもたなかった点に注目して読みました。違う集団と出会ったときに、結婚の取り決めをするとありましたよね。そこで血縁上のつながりを作るのであれば、そのタイミングでなんで大きな集団にしないんだろうかと少し疑問でした」
「その点について私は、集団ごとに獲れるものとかに得意不得意があって、大きな集団にするよりは多様な小集団がたまに交流するほうが都合がよかったのかもしれないなあと考えました」
争いについて
「今回の範囲を読んで一番興味深かったのが、文明に必要な物が得られるエリアが今と同じようなエリアだということ。そして、『力』というものが重要だという発想は、こんなに昔から続いているのだということでした」
「シュメルの前の狩猟民時代の記述と比較すると、『力』というものの位置づけが変化したなあと感じました。狩猟民の集団が隣接集団と出会ったときに、祭を行うとありましたね。私はこの部分を読んで思ったんです。『なんで祭なんだ!?』と。そこで争いが生まれないのはなぜなんだろうかと気になりました」
「おそらく争ったところでメリットがないからではないでしょうか」
「なるほど。それはシュメルの時代との大きな違いでしょうね」
「発表の中で示された『姿形が同じようなもので生活が大きく違うのを目にするのが争いの要因ではないか』という吉崎さんの仮説に関して、『そうだな』と思うと同時に、それは同族嫌悪の意識の現れという面もあると感じました」
「同族嫌悪という意識は考えてみたら不思議な感情ですよね。近しいことは、仲間意識にもなりますが、その反面、憎しみの感情を生む」
「同族嫌悪の意識というのは今でも強く、それが様々な差別感情に潜んでいるような気がします」
文字について
「文字の発明に関する部分が興味深かったです。労務管理の名簿を作る必要上、文字が発明されたと。めっちゃ事務的な理由なのに笑ってしまいました」
「あいつはサボってたよ的な記録ですよね(笑)」
「私も神に関する言葉を記録しておくためではなかったのに驚きました」
「文字が発明されて、神話や法典などの文字を基礎とした社会が生まれるわけですけど、最初の最初は、労働者管理のための名簿という目の前にある問題をどうにかするという目的だったんですね。決して高尚な目的ではなかった(笑)」
「他言語を学んでいる中で、しんどいときもありますが、文字というものがどのようにして起こったのかについて知ることで、文字を作った人たちに親近感も湧きましたし、何か勇気づけられる気がしました」
本読書会に参加した感想
「読むことの面白さを知りました。これまでは情報を手に入れる読み方ばかりをしていましたが、他の方の読み方を聞いて、内容を読むということの意味がわかったような気がします」
「しっかりと読むときには線を引くのですが、他の方が注目したところに線を引いていませんでした。こんなに短い文章であっても着眼点が人によって大きく違うということが面白く、また、それを知れて嬉しかったです」
「最初はめちゃくちゃ緊張しました。学生時代、アウトプットしながら読むことは苦手だったので、とても勉強になりました」
「私は読書コミュニティを研究し、いろんな読書会に参加しています。その中でも今回の会は、レジュメもあり、何を話し合うのかの段取りもきちんとあって、読書会のあり方を考える上でとても参考になりました」
「社会人になってから本を介した付き合いができるのはすごく嬉しいですし、これからも楽しみです」