2020年2月16日、読書会「マクニールの『世界史』を読む」の第2回目を実施しました。
スケジュールの都合上、当日に参加できなかった方たちからの感想文が届きましたので、紹介させていただきます。
第2回目で扱った内容は、シュメル文明伝播の第一次の様相。メソポタミア文明・エジプト文明・インダス文明・ヒッタイト文明・ミノア文明・巨石文明・中国文明・・・さまざまな文明が登場しました。
同じ範囲(マクニール「世界史(上)」69頁~104頁)ではありますが、着目点は人それぞれ。この事実を確認することは、それ自体が学びになるのはもちろん、それ以上に「私の着目点を明らかにする」という意味も大きいと考えます。
他者を知り、これとの相対化を通じて自分自身への理解が進む。
本読書会が、その一助となれば幸いです。
Dさんの感想文
79頁にて、王が神であったからファラオ(王)に服従する強い理由ができたと述べられています。これは信仰が先にあったのか、強い王を作るために作られたのか、どちらなのでしょう。
78頁では、メソポタミアで1000年あるいはそれ以上かかった発展が、エジプトではシュメル人の経験を利用することで半分以下の期間で実現した現象が述べられています。
現代でも、明治維新の日本、ソ連、韓国、台湾、中国で見られ、人類史で普遍的な現象なのだと思いました。今回改めて調べてみてその現象がガーシェンクロンモデルと呼ばれることを知りました。
とあるキリスト教教会関係者の感想文
今回の範囲(2 文明のひろがり 紀元前1700年までの第一次の様相)を読んで気になったことを2つ挙げたい。
(1)自然環境・地理的環境
「文明のひろがり」というタイトルからもわかるように、文明が広がっていくのだが、その広がり方が気になった。
「ステップの狩猟民たちは、初期農耕民が発達させた一連の技術に接したとき、家畜飼育をとり入れたが、穀物栽培のための骨の折れる農耕は受け入れないで、自分たちの自然環境に対して効果的な適応をとげた。」
- マクニール「世界史(上)」70頁
「エジプトが政治的に統一されると、シュメル人の技術的用具のなかで、エジプト人にいいと思われるような要素をすばやく吸収する土台が築かれ、他方エジプト地方特有の伝統とか地理的条件にそぐわない要素は受け入れられなかった。」
- マクニール「世界史(上)」78頁
「東南アジアの大河の流域では、まったくちがった型の園耕が、紀元前三千年紀の間にさらに重要性を増してきた。これらの地域では、モンスーンが決定的な事実である。」
- マクニール「世界史(上)」101頁
これらに共通するのは、自然環境・地理的環境が前提としてあって、それと合うものを取り入れたということである。私なりに言い換えてみると、「それはあなたのところでは良いかもしれないけど、うちではちょっと無理ですわ」という感じであろうか。
なぜ今回の範囲を読んで、この自然環境・地理的環境が気になったかというと、私が今イタリアに住んでいるからである。ヨーロッパで流行ったものを日本に持って行って、逆に日本で流行ったものをヨーロッパに持ってきて、ヒットするものとしないものがあるのは当然である。私は今石造りの建物に住んでいるが、おそらくかなり昔にできた建物だろう。地震が(ほとんど)ない国だからなせる技であって、日本では考えられない。台風の被害もない。
情報技術の発達のおかげで、当時以上に今は世界が狭くなっている。世界のどこにいても、ネットがつながれば情報を手に入れられる現代世界において、「うわべだけ」を取り入れることは難しくない。しかし、本当に根付かせようとするなら、それが生まれた背景を理解しないと、浸透しない。
キリスト教が日本社会に根付かない1つの理由は、そもそもの背景が違うのだ(72頁が参考になると思われる)。
(2)「水」
先の(1)とも重複するが、「文明のひろがり」方に「水」が大きく関係していることが興味深かった。
「実際、神聖なファラオの王家は、シュメルの神殿のようであり、ナイル川の航行可能な上下全域から、余剰農産物をひとところに集中したのだった。これによって、ファラオの宮廷で圧倒的な権力が維持されることができ、エジプトは、シュメルではまったくいかんともしがたかった、国内の平和と秩序の問題を解決したのである。」
- マクニール「世界史(上)」80頁
「文明が天水によって水を得る土地に栄えるためになにが必要かは、簡単に述べることができる。まず、農民が剰余食糧を生産できなくてはならない。次に、なにかある社会機構が出来て、生産する農民の手から、剰余食糧を専門家の人々に移譲しなくてはならない。後者は、そうしてもらってはじめて農民大衆のように畑仕事で時の大部分を費やさなくても、高い技能や秘密の知識を練ることに自由に専心できたのである。」
- マクニール「世界史(上)」92頁
水や船が文明を発展させ、広めていったことは他にも例が挙げられているが、それが2つ目の引用部のように文化や統治機構の発展に寄与していったことは興味深い(81頁のピラミッドもおなじことだろう)。
102頁以降のモンスーン・アジアの米工作も、やはり水の問題が大きく関係している。