2020大学入試改革の大きな柱である英語4技能評価。「英検」等の4技能テストの結果が国公立大学の出願資格として用いられるケースも出てきますので、事前に準備を進めておく必要があります。
どのようなテストがあるのか
2018年3月に文科省が認定した4技能テストは次の通りです。
- ケンブリッジ英検
- 実用英語技能検定(いわゆる英検)
- GTEC
- IELTS
- TEAP(PBT)
- TEAP(CBT)
- TOEFL iBT
- TOEIC L&R/TOEIC S&W
その後、2019年7月2日に「TOEIC」が撤退を表明するなど、まだまだ動きがあるかもしれず、受験生の方だけでなく、そのサポートをする保護者や教職員の方にとっても不安いっぱいな状況だと思います。
どのテストを受ければよいのか
各テストの目的や内容が異なりますので、テストとの相性も重要だと思います。しかしながら、現実的観点からすれば「お金」と「対策のしやすさ」の2つが基準となり、次に述べる通り、「英検」が軸になると思われます。その上で、個々の受験生が相性等を考慮して「他のテストを活用するかどうか」を決める流れが一般化すると予測されます。
「お金」
受検料は各テストによってずいぶんと違います。
一部のAO入試のような特別な英語力をアピールする場面でない限り、「TOEFL iBT(235ドル)」や「IELTS(25,380円)」などの高額な受検料が「事実上、受験料に追加される」ことに負担感を覚える人も少なくないと思います。
この意味で、「英検」や「GTEC」はまだ受けやすいのではないでしょうか。
- 英検2級(6,500円、CBTは7,500円)
- 英検準2級(5,900円、CBTは6,900円)
- GTEC(CBT 9,900円)
※ 金額は改定される可能性があります
「対策のしやすさ」
各テストの目的や内容は異なりますので、「学校等がすべてのテストについて対策してくれる」と期待せず、「ある程度は自分で対策しなければならない」と考えておいたほうがよいと思われます。
これまでの指導経験上、「テストの形式等に慣れてからやっと本来の実力がスコアに反映される」ものだと感じています。そのため、市販教材の種類が多く、そして受検経験者のアドバイスが手に入りやすいテストのほうが受験生にとっては都合がよいのではないでしょうか。
この意味で、受検者数の多い「英検」と「TOEIC」の2つが利用しやすいのですが、先ほども触れた通り、「TOEIC」が撤退しましたので、「お金」の面も含めると「英検」が軸になるのではないでしょうか。
4技能テストの利用パターン
入試に4技能テストを用いるとしてもその利用方法にはいくつかのパターンがあります。
- 出願資格とする
- 出願資格とするが学校の証明書でもよい
- テストの成績によって加点する
他にも、「不要」あるいは「実質的に不要」の大学もあり、志望大学の方針を確認しておく必要があります。大学の方針にもいろいろあるということをお伝えするために、近畿圏の国公立大学を列挙します。
近畿圏の国公立大学の対応
(注)2019年6月30日に実施した「大学入試改革 - 英語4技能と新センター試験」のセミナーのために調べた内容です。変更等もあるかもしれませんので、確実な情報が必要な方は各自で調べて欲しいと思います。
出願資格とする
- 大阪大学(A2)
- 神戸大学(A2)
- 滋賀大学(A2)
- 滋賀県立大学(A1)
- 滋賀医科大学(A1)
- 和歌山県立医科大学(A2)
出願資格とするが学校の証明書でもよい
- 京都大学(A2)
- 京都府立医科大学(A2)
- 大阪府立大学(A2)
- 大阪市立大学(A2)
- 奈良県立医科大学(A2)
- 兵庫県立大学(基本的にはA2以上、国際商経営学部グローバルビジネスコースはB1以上、工学部および理工学部は不要)
テストの成績によって加点する
- 京都府立大学
- 大阪教育大学(1~2割)
- 兵庫教育大学(B1で20点、B2で40点、C1以上で50点の加点)
- 神戸市看護大学(出願資格はA2、C1以上は英語の得点が満点換算)
活用する予定
- 和歌山大学
- 奈良県立大学
- 奈良教育大学
- 福知山公立大学
不要
- 京都工芸繊維大学
- 奈良女子大学
実質的に不要
- 京都市立芸術大学(任意)
- 神戸市外国語大学(大学入学共通テストだけでも受験可能)
当面の間はCEFRのA2が鍵?
大学名の後の「A2」や「A1」はCEFRのレベルです。
CEFRとは内容等の異なるさまざまな4技能テストの評価ガイドラインで、A1とA2が「基礎段階の言語使用者」レベル、B1とB2が「自立した言語使用者」レベル、C1とC2が「熟練した言語使用者」レベルとなります。A1→A2→B1→B2→C1→C2とレベルが上がっていきます。
現時点における「英検」各級合格のCEFR評価は次の通りです。
- 3級:A1
- 準2級:A2
- 2級:B1
- 準1級:B2
- 1級:C1
先ほど紹介した【近畿圏の国公立大学の対応】を見てみますと、「A2が鍵になっている」と言えるでしょう。高校卒業程度の英語力が英検2級(B1)と言われていますので、それよりも低いA2であれば特別に気にする必要がないように感じるかもしれません。しかしながら、以下の観点は無視できないところです。
そもそも高卒資格をもっている人がすべて英検2級や準2級に合格できるのか
英検2級というのも簡単ではなく、「高校範囲までの英語についてどれくらい習熟しているのか」は個人差が大きいです。得意科目・不得意科目は人によってさまざまでしょうし、「他科目で英語の失点をカバーする」という戦略を前提に動いている人からすれば、「英検2級」はもちろん、「英検準2級」というのも低くないハードルではないでしょうか。
どの時期に受けるのか
大学入試改革のシステムでは、高3生の4~12月の期間中に「英検」などの4技能テストを受けることになります。学力のピークが受験直前期になることの多い高3生にとって夏前の「英検」に対応できるかは無視できないポイントです。
プレッシャー
高3生の4~12月の期間中、2回まで「英検」などの4技能テストを受けるチャンスが与えられます。しかしながら、過去問演習や模擬試験、さらには他科目の勉強も考えると、「1回目で確実に英検準2級(A2)に受かっておきたい」という思いになるのが実際のところではないでしょうか。
いつも通りにすれば準2級に合格できるとしても、「絶対に落とせない」というプレッシャーの中で「受かること」は簡単なことではありません。
このようなプレッシャーに勝つ力も試されていると言えばそれまでなのでしょうが、現実的には高2生の間に英検準2級に確実に受かるための準備をしておくのが得策でしょう。
大学選びにも影響?
先ほど紹介した【近畿圏の国公立大学の対応】を例に考えたいと思います。
「大阪大学へ進みたい」という人が英検準2級(A2)に1回目で合格した場合はよいのですが、不合格だった場合、2回目に賭けるか、他の大学も視野に入れるかを決めることになります。
他の大学を視野に入れるとしても「神戸大学」や「滋賀大学」は大阪大学と同様に「A2を出願資格」としていますので除外することになります。
「4技能テストを必要としない大学」を受けるのも1つの方法ですが、その選択肢は限られています。「学びたいもの」が京都工芸繊維大学、京都市立芸術大学、神戸市外国語大学で学べるのであればよいでしょうが、そうでない場合は選択肢から外れます。また、男子であれば奈良女子大学に進学することは不可能です。
このようなときに考慮に入るのが、「出願資格とするが学校の証明書でもよい」というカテゴリー。京都大学、大阪府立大学、大阪市立大学などです。
学校の証明書って何?
大阪府立大学を例に挙げると、在学校・卒業校による「出願者にCEFR対照表のA2レベル以上の英語能力が備わっていることを明記した文書」の提出があれば、出願資格が確認されます。
この証明書はどのタイミングで出るのでしょうか。もっと言えば、どのタイミングで判断されるのでしょうか。
国公立大学受験の場合、センター試験の結果を踏まえて「どこを受けるのか」を決める人が多いかと思います。そうであれば、出願大学が決定してから証明書が発行されるのでしょうか。
そのようなギリギリの時期に証明書を発行する余裕があるのかという問題もありますが、そのタイミングで「A2レベル以上の英語力があると証明できない」と判断されるのであれば、非常に大きな混乱が起こりかねません。
であれば、もっと事前に「あなたはA2レベル以上ですよ」という学校側の判断が示されるのではないでしょうか。「その判断の具体的な時期はいつなのか」が気になるところです。
たとえば、高3の4月時点で判断されるのであれば、その時点で「学校の証明書でもよい」カテゴリー内での受験だけを考え、その対策に集中するほうが時間の使い方としては得かもしれません。
高校の判断の基準や時期がどのようなものになるのか。これが当面の間の受験戦略上の鍵になるような気がします。そして、4技能テストの使い方に関して大学の方針が統一されていない以上、大学入試改革、ひいては「これからの英語教育」のあり方についても、高校の判断が鍵になってくるのではないでしょうか。
(吉崎崇史・鈴木順一)