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【talks】アート×哲学×物理?!つなぐ対談(2)【けよう&杉本圭助(美術作家)】

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けよう:作品のベースに物理学って?人間が生み出したシステム(体系だった考え方)ってどういうことですか?

 

杉本圭助:物理も、哲学の定義と同じで、何もないところルール(公式など)を作っていく。こう!と決めていく。


まず、仮説を立てて、それを実験で実証できたら、それが「存在」することとして物理学的に認められる。本当に正しいという、本当の本当の証拠なんてないと思います。アインシュタインが、ニュートンの力学の考えを更新したように、歴史上、何度も物理の公式は更新されています。


だから、論理っていうのは、本当に人間っぽい営みだと思います。


けよう:人間らしい営み・・・。杉本さんは、一貫して「人間」をテーマに創作されているそうですが、その一見したら無表情で無機的な作品どう人間を表すのでしょう?ずっと聞きたかったんです。


「マネキン」というシリーズの作品を拝見しました。

 

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けよう:うまく説明できませんが、何か秘めたものを感じました。そして、近づいてよく見ると、線の間から、中の絵の具の色味が見えたり、線の縁や周りは、めくれた後やカサカサした表情を見せています。何となく、そのあたりが、人間の有機的な形を表しているのでしょうか?


人間は、口から肛門まで管でできていて、裏返せる的な話しをどこかで聞いたことがあって、そんなイメージでしょうか?この絵は人間の裏側を見ている?


杉本圭助:そうですね。そういう風に、“人間”を作品から感じとってもらえれば、それで十分です。


さきほどお話ししたことに少し戻りますが、物理学のように“世界をどうしたら把握できるかということ”を目的につくられた考えの体系や論理を生み出す行為自体が、人間らしい営みだなと僕は思っています。その1つである物理学の中で、“力(force)”“時間(time)”という概念が生まれてきてて、普段当たり前のように僕たちは使っていますよね。そういったことを、作品で感じさせることはできないか、と考えたんです。


例えば、“力(force)”に形を与えられないか?ということについてアプローチするために、「マネキン」の後続となる「きれる頭」というシリーズ(下の写真参照)では、材料を使っています。何層にも色を塗ったキャンバスを張って、その上から色を塗ります。その後、糸を抜き取ると、糸を張るときにかけた力の加減や筆跡が形になって現れます。


他にも、絵の具が乾燥した際にできる、クラック(ひび割れ)をそのまま作品に生かしていますが、これは乾燥という自然現象を何らかの形で絵画に取り込めないかと考えました。また経過した“時間(time)”を形にしたかったからです。実は、絵画の業界では、クラック(ひび割れ)があることはNGのようなんですが、僕は自然現象というものも絵画の中で肯定したいと思い試行してみました。


人間の顔は、といった部分で構成されているから、一般的に人間を描くときは、目や鼻などそのパーツを描きますよね。それと一緒で、僕は、人間が生み出してきた論理や考えである“力(force)”や“時間(time)”という要素を、人間を表現するために取り入れたんです。


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きれる頭8-1/sharp mind 8-1

2015年        

acrylic, medium on wood panel,                   

crackle with pulling out embedded string          

130.3 × 89.4 cm (51 1/4" × 35 1/4”)

©Keisuke Sugimoto, Courtesy of Kodama Gallery   

 

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きれる頭3-3/sharp mind 3-3

2015年        

acrylic, medium on wood panel,                   

crackle with pulling out embedded string          

40.9 × 31.8 cm (16" × 12 1/2”)

©Keisuke Sugimoto, Courtesy of Kodama Gallery

 

けよう:なるほど!まず杉本さんの考える人間像人間らしいことが、人間が生み出した論理体系思想のことなんですね。それがまず杉本さんのベースにあると。そしてそれらの要素を、様々な技法を用いて、平面の中で表現しているんですね。


杉本圭助:そうですね。

 

けよう:面白いです。“人間”は、哲学でも、ものすごく語られ語り尽くされてきたテーマです。人間は、原子レベルにも分解できるただの物質でもあり、有機的な動きを持つ機械的な個体でもあり、感情も持つし、社会にも属して他に倣い、協調したり。そして、人間自身も完璧に自分のことはわからない


こんな様々な面を持ちながらもやっぱり曖昧でよく分からないのが人間ですよね。


杉本圭助:大学生の頃、文化人類学の本で、通過儀礼のことを読んだことがあるんです。ある部族が成人になるために必要な儀礼について書かれていて、まさに、わけのわからないことが大人になるために必要とされていました。そういうことを考え出す存在であること自体に、人間って面白いな~と思いました。


あと、ルネッサンス期透視法の発明に感銘を受けました。この時に初めて、二次元上に三次元を表現する手法が確立されました。その後も、デュシャンの「階段を降りる裸体」(1912年)はじめキュビズム(初期はピカソに始まる。対象を解体し、抽象的な形で再構成する。再構成するにあたり、単一方向の視点からではなく、複数の視点から捉えた対象を1つの平面に収めるように描く動向)という運動には、平面の中に多元軸という考えが入ったと思っています。


僕は、その先は、何か?ということを意識しています。物理学で議論になっている四次元や五次元?現代人らしい新しい感覚を模索しています。


けよう:見えていることがどういうことか?人間は、どう物事を捉えているのか。これも長い探求の歴史絵画史上、続いているんですね。


そうだ!聞いてみたいことがありました。私、が好きなんです。先日、ダブル虹を見たんです。


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2019年7月26日夕刻 大阪府


けよう:これって、物理学で説明できる現象なんですよね?話ガラッと変えました。笑


杉本圭助:変えすぎです。笑

 

ですか。そうですね。日本で、虹は7色です(3色や5色など世界の各地で様々)。この7色は、それぞれ、光の波長が違います。が一番波長が長く橙以降の順に波長が短くなります。


は、太陽光線が、水滴の中で分散されるために生じる現象です。それぞれの光が屈折する際に、その波長の違いによりばらけるので、7色に色づいて見えるのです。


ダブル虹は、主虹(下の濃い方)と副虹(上の薄い方)と呼びます。主虹は、水滴の中で1回反射したもの副虹は、水滴の中で2回反射したものです。副虹は2回反射しているから、見える色の順序が逆で色も薄いんです。

  

けよう:ほ~~!ありがとうございます。虹は、物理学で説明ができるものなんですね。


ちなみに、最近、東京都現代美術館で展示が開催されていたオラファー・エリアソンの作品で「Beauty」というものがあって、虹を出現させるものです。エリアソンは、見る人によって、見る場所によって虹のようすが変わることを強調したかったようで、つまり作品は、存在する作品を鑑賞者がただ見るのだけではなく、作品が、見る人に関係してくるものだと考えているそうです。

 

www.mot-art-museum.jp


けよう:杉本さんは、目に見える虹をそのまま形にするというエリアソンのような技法は使わないかと思いますが、目に見えるもの自体には興味がないのでしょうか?


杉本圭助:ん~。見えているっていうのはすごく不思議な現象だと思います。起こっているものを見ているのはだけど、それを認識しているのは脳みそで。。。


例えば、個々人によっても見えるレベルがありますし、とは見えている世界が違います。見えているものは真実っぽく見えるけれど、それを解釈する人認識する人によって、物事の見え方は違うから、見えるもの・見えないものという領域自体も、自分の中ではすごく曖昧なものかもしれません。 


けよう:これは、難しい領域です。何が見えてるか、どう見えているか。。。では、エリアソンじゃ無いですけど、作品を見る人作品関係については、何か思われていることはありますか?

 

杉本圭助:過去に、僕の作品を見たとある人から、作品のひび割れの様子が、「小さい頃見た近所の土壁みたいだ」と言われたことがあります。それを聞いてから、その人の記憶作品が結びついて、色々な解釈が生まれ作品がその人の内に入り込むんだなと思いました。


けよう:ありがとうございます。を見て、ジンクスを信じたり、感動したりするのって人間だけですよね。そして、科学が発達していなかった古代の人たちにとっては、虹って神秘現象だったのかな~って思います。神による吉報のお告げとか。でも、私現代人ですけど、虹みたら良いことあるって信じてます。笑


杉本圭助:信仰深いんですね。笑

 

虹の説明も先ほどしましたが、それも本当に正しいなんてわかりません


けよう:なんだか哲学と似ています。何が真実か?ずっと問い続ける。学問全てがそうなんですかね。


杉本さんの作品は、初め、とても無機質なものに見えていました。しかし、その作品を構成する、力や時間の概念物理的論理は、そもそもとても人間的な試みです。一見、冷徹に見えるグリットから、チラリと垣間見える人間性が実は隠れていたなんて。

 

杉本圭助:まあ、その辺で(笑)。ありがとうございます。


けよう:現代美術って本当にさまざな分野にまたがっていますね。もあり踊りもあり、演技もあり舞台美術もあるオペラのようです。他にも、杉本さんの関心のある物理学のことをもう少し聞きたいですね。


(けよう・杉本圭助)

 

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