高校学習指導要領の改定案
大きな社会変革の途上にある現在、数年先の未来ですら予測することが困難な状況にあります。
これからの人たちがどのような教育を受けて社会に出ていけばよいのか。この問題についての1つの答えが、先日、文部科学省から高校学習指導要領の改定案という形で示されました。
そこでは「主体的・対話的で深い学び」(いわゆるアクティブ・ラーニング)の導入をはじめ、思考力、判断力、表現力を伸ばす教育のあり方が語られています。
「区別」の意識
思考力、判断力、表現力の土台となるのが「論理的に言葉を使う力」です。そこで、論理的表現の基礎となる「区別」の意識について考えてみたいと思います。
そもそも言葉というものは「他のものとの区別」を示す役割を担っています。リンゴの実の皮の色、血液の色、虹の一番上の色。これらの色に共通点を見出し、それを特別視し、他の色と区別して呼ぼうと考えたとき、その色に名前を与えます。
すでに「赤」という言葉が流通している場合においても、目の前の色を「赤」と表現しようとするとき、その表現者の頭の中には青や黒などの「赤でない色」が存在しています。「赤でない色」と区別したいと思うからこそ「赤」という言葉を選択するのです。
区別のトレーニングの重要性
以上のように、「A」という言葉が使用される背景には、「Aでないもの」と区別したいというニーズがあります。この点を踏まえて「どのような情報を言語化するか」を考えないと、論理的表現を作成することが難しくなります。
たとえば、「イタリア料理(A)の魅力」を述べたいのであれば、「イタリア料理でないもの(Aでないもの)」をイメージして言語化する情報を選択しなければなりません。
このとき、「イタリア料理でないもの(Aでないもの)」にはさまざまなものが含まれますので、その中で適切な比較対象を選ぶ必要も生じます。
コツは「似てるけど少し違うもの」を選ぶこと。「イタリア料理」の比較対象として「野球を観戦すること」を挙げても何を言いたいのかが伝わりません。「イタリア料理」という「国名が入った料理のジャンル」について語るのであれば、「日本料理」や「トルコ料理」などを比較対象にしたいところです。
実際、論理的表現のトレーニングを重ねていない人で最も多いミスは、この「区別の意識の欠如」に由来するものです。論理構成の技術、接続表現の知識など、エッセイ作成における重要ポイントは他にもありますが、「区別のトレーニング」を重ねた後でないと効率よく習得できません。
次回以降の記事では、「電子書籍の普及」に関するエッセイを素材とした「区別のトレーニング」を紹介したいと思います。
(吉崎崇史)