【例文2-1】
深夜、小腹が減ったときの強い味方であるカップ麺。このようなとき、私は、シーフード味のものではなく、カレー味のものを好んで食べる。
「どっち?」「こっち」の自演
「Aではなく、B」という表現。2つのもの(AとB)を比べ、後者(B)を選ぶものです。
あらかじめ設定されていた選択肢(A、B)の中から「Bを選ぶ」こともありますが、今回は、そういった「書き手以外の存在とのやりとり」を前提としないケースについて考えたいと思います。
書き手が自分の判断で「AかBか?」という問題を設定し、それについての答(B)を示す。この「AかBか?」という問題設定には、必ず「意図」があります。その意図に着目した先読みリーディングをしてみましょう。
わざわざ比較対象を示した意図
【例文2-1】では、【A:シーフード味のカップ麺】と【B:カレー味のカップ麺】が比べられており、「私」は後者(B)を好んで食べると述べています。
この後、どのような話が続くと予想できますか?
「【カレー味のカップ麺】についての肯定的評価の話が続く」
これは当然として、もう少し突っ込んだ予想をしてみましょう。
単に【カレー味のカップ麺】のおいしさについて語りたいだけであれば、わざわざ【シーフード味のカップ麺】を比較対象にする必要がありません。【例文2-1】の続きには、【シーフード味のカップ麺】との違いを示す言葉があるはずです。
「よい」「よりよい」「まし」
ところで、「Aではなく、Bを選ぶ」という話のとき、基本的には、次の3パターンのどれかが続きます。
- (ⅰ)Aをマイナス評価・Bをプラス評価【Bのほうがよい】
- (ⅱ)Aをプラス評価・Bをプラス評価、かつ、そのプラスの程度はBのほうが大【Bのほうがよりよい】
- (ⅲ)Aをマイナス評価・Bをマイナス評価、かつ、そのマイナスの程度はAのほうが大【Bのほうがまし】
「深夜、小腹が減ったときの強い味方であるカップ麺。このようなとき、私は、シーフード味のものではなく、カレー味のものを好んで食べる。」(例文2-1再掲)
この【例文2-1】は「深夜、小腹が減ったときにカップ麺を好んで食べる私」の話であり、さらには、「カレー味のものを好んで食べる」とあります。
【カレー味のカップ麺】についてのプラス評価が確定していますので、(ⅲ)の【Bのほうがまし】という話が続くとは考えられません。【例文2-1】の続きは、(ⅰ)【Bのほうがよい】か(ⅱ)【Bのほうがよりよい】のどちらかです。
比較対象についての評価
「【例文2-1】の後には、【シーフード味のカップ麺】との違いを示す言葉があるはずだ」という予想ができることについてはすでに述べました。
さらに言うならば、その中で【シーフード味のカップ麺】についての評価が述べられるはず。そうでないと、わざわざ【シーフード味のカップ麺】を比較対象に用いた意味がないからです。
【例文2-1】の続きを【シーフード味のカップ麺】についての評価に着目して読み進めたとしましょう。マイナス評価であれば(ⅰ)、プラス評価であれば(ⅱ)だと判断できます。
(ⅰ)【シーフード味のカップ麺】をマイナス評価
【シーフード味のカップ麺】をマイナス評価、つまり、「【カレー味のカップ麺】のほうがよい」とする場合、議論の筋としては大きく次の2つが考えられます。
- ①:【シーフード味のカップ麺】にあって【カレー味のカップ麺】にないものを「マイナス評価」
- ②:【シーフード味のカップ麺】になくて【カレー味のカップ麺】にあるものを「プラス評価」
【シーフード味のカップ麺】についてのマイナス評価の意味合いは、①では「欲しくないものがあるからマイナス評価」で、②では「欲しいものがないからマイナス評価」です。
(ⅱ)【シーフード味のカップ麺】をプラス評価
【シーフード味のカップ麺】をプラス評価、つまり、「【カレー味のカップ麺】のほうがよりよい」とする場合、「プラスの程度」の話が続きます。ここで「程度」の話について少し考えてみましょう。
「程度」について語るとき、基本的には「基準」の話が必要です。「ものさし」をイメージするとわかりやすいかもしれません。
なにかを評価するとき、その評価の仕方はさまざまです。どのような基準で評価するのか、どのような「ものさし」を使って価値をはかるのかによって、評価の結果は大きく異なります。
フルーツにおける「糖度」という基準。交換価値を示す「金額」という基準。身のまわりはたくさんの基準(ものさし)であふれています。「どの基準(ものさし)を用いるのか」という選択は、その人の価値観等のあらわれであり、これを明示することは「私」について語る上では特に重要な手続きです。
「シーフード味のカップ麺もカレー味のカップ麺もおいしい。だけど、〇〇の点で、私はカレー味のものを好む」
(ⅱ)の展開であれば、「この『〇〇の点で』にあたるものが明示されるはずだ」と思いながら読み進めたいところです。
特定の比較対象を示した意図
さて、(ⅰ)と(ⅱ)で場合分けをして説明してきましたが、少し違う観点で【例文2-1】を考察したいと思います。
【例文2-1】を再度示します。
「深夜、小腹が減ったときの強い味方であるカップ麺。このようなとき、私は、シーフード味のものではなく、カレー味のものを好んで食べる。」(例文2-1再掲)
これを読んだとき、「なんで、醤油味のカップ麺が出てこないの?」と思ったあなた。先読みリーディングの発想ができてます。まあ、別に「醤油味」じゃなくても「味噌味」や「豚骨味」でもいいのですが…。
【例文2-1】の「私」が言いたいのはなにか。「深夜に小腹が減ったとき、カレー味のカップ麺を好んで食べる」ということです。
これだけを考えると、基本的には、比較対象に【シーフード味のカップ麺】を用いる必要はありません。「醤油味」でも「味噌味」でも「豚骨味」でも「トマト味」でも「唐辛子味」でも…「カレー味」でなければ比較対象に使えるはずです。
なのに、なぜ【例文2-1】の「私」は【シーフード味のカップ麺】を比較対象に用いたのでしょうか?
わかりやすいから
考えられる理由の1つは「わかりやすさ」です。
【カレー味のカップ麺】のよさを伝える上で、最もわかりやすく説明できる比較対象が【シーフード味のカップ麺】だと判断。
顕著な違いを示せるものとして「シーフード味」が選ばれたということです。
必要だから
次の【例文2-2】や【例文2-3】のような展開もあり得ます。いずれも、例外的に【シーフード味のカップ麺】を比較対象にする必要がある場合です。
【例文2-2】
深夜、小腹が減ったときの強い味方であるカップ麺。このようなとき、私は、シーフード味のものではなく、カレー味のものを好んで食べる。外食時には海の幸が豊富に使われている「ちゃんぽんラーメン」をよく食べる私だが、不思議なことに、深夜の自宅ではカレー味のカップ麺を食べたくなるのだ。
【例文2-3】
深夜、小腹が減ったときの強い味方であるカップ麺。このようなとき、私は、シーフード味のものではなく、カレー味のものを好んで食べる。かつて私はシーフード派だったのだが、この数年は、好みが変わり、完全にカレー派になった。
考察
【例文2-2】は「状況」が鍵となる話で、【例文2-3】は好みの「変化」の話です。これらの場合には、【シーフード味のカップ麺】が比較対象にならないといけません。
さて、先読みリーディングの話に戻ります。【例文2-2】と【例文2-3】では、どのような「先読み」をしましょうか?
【例文2-2】では、「外食のとき」と「深夜自宅で食べるとき」という「状況の違い」が鍵となります。そのため、その「状況の違い」についての考察が続くだろうと予想できます。
【例文2-3】では、「好みの変化」について語られていますので、要因等の「変化の説明」の話が続くだろうと予想できます。
いろいろありますね。
そうなんです。言葉というものは「他のものとの区別」を示す道具なので、比較・対比に基づく「選択の言葉」はしょっちゅう出てきます。そのため、いろいろなパターンがあって難しいです。「こんなパターンもあったよね」というサンプルをたくさんもっている人が有利なので、普段から「選択の言葉」に注目しておくのが理想ですね。