法学部を卒業後、理学部生物学科を再受験し、大学院にも進まれたひろっこりーさん。現在、スノーボードアクセサリー&アパレルブランド「ROUND snowboard gear」を運営されています。
今回、「理学部(生物学科)では、何をどのように学んだのか」について、思い出していただきました。
ロジカルノーツの読者の皆様、こんにちは。ひろっこりーです。今回は理学部の中でも、私が卒業した生物学科について、その学部生活をご紹介したいと思います。「前編」「後編」の二段構えですので最後までお付き合いいただけたら幸いです。
また、以下の話は、ほんの一例であり、すべての大学に当てはまるわけではないと思いますので、ゆるい気持ちで楽しんでもらえたら嬉しく思います。
無駄なことなど1つもない
入学してから最初の1~2年間は、専門である生物学を学びつつも、一般教養や語学も学びます。
まったく興味がない分野も、中にはあるでしょう。語学に関しては、英語以外に第二外国語なるものも登場し、多少の動揺もあるでしょう。そのあたりは文系理系に関わらず共通ではないでしょうか。しかし、あとから振り返ると、これらの一般教養や語学こそが、他学部と交流できる唯一の貴重な機会だったと気づくのです。
順調に単位を取得していったとすると、3年生からはほぼ完全に生物学だけの世界に突入していくからです。そう思うと無駄なことなど1つもないです。すべての日々を大切に過ごしましょう。。
深く学びたい分野を模索
3年生になる頃までには、生物学の中でもさらに自分の興味が深い分野、あまり好みでない分野などがでてくるはずです。
前回、例として挙げた、「微妙な推しの違い」ですね。
生物学と一言で言っても、植物に関する分野と動物に関する分野はまったく異なります。また、スケールで言っても、分子生物学などミクロな世界を扱う分野があれば、生態学などマクロな視点から考える分野もあったりと、研究分野は多岐にわたります。
そこで、3年生では、生物学の中でも自分がさらに深く学びたい分野を模索し、4年生からはその分野を研究している「研究室」なるものに所属していくことになるのです。
自分の研究分野を選ぶ、と言っても何をもとに選べばよいのか。各研究室の名前だけでは具体的に何をやってるのか想像することは難しいし。。。
でもご安心ください。
3年生の「実習」という形の授業において、各研究室が入れ代わり立ち代わりで模擬研究をさせてくれるのです。わかりやすく言うと、各研究室が日頃行っている研究を、誰でも気軽に取り組めるよう簡略化して、実習として研究体験会を開いてくれるということです。
もちろん体験会と言っても単位がかかっている授業の一環なので、自分の興味の有る無しに関わらず、すべての研究室の実習に参加する必要があるのです。
ハエの脳・・・
私は、動物は大好きですが、昆虫がとても苦手なので、昆虫を研究材料として扱う研究室の実習が最難関でした。実習内容は、ハエの脳を取り出して特定の部域を染色して観察するというものだったのですが、その作業は私にとって非常に厳しいものがありました。
なんせ、顕微鏡で拡大しなければハエの脳をキレイに取り出すことは不可能ですし、拡大すると当然ハエの顔も超拡大されるわけです。
顕微鏡をのぞかなければ脳はとれない。しかし顕微鏡をのぞくと、そこには自分がとても苦手としている生き物がとてつもない大きさでこちらを向いている。
もはや正気ではいられない。
しかしやらねば単位を落とす。
乗り越えなければならない壁は人生においていとも簡単に現れるのです。謎のうめき声をあげながらもなんとか脳を取り出すと、それはまるで皮をむいたあとのぷるぷるのミカンのようで、「なんかカワイイやん。」と、ほっとしたことを覚えています。
サギ、雑草、細菌
一方、動物の生態学を研究している研究室の実習では、誰にも負けないくらい生き生きしていました。
大学近くの川で、ただひたすら動かないように息をひそめて、数時間サギを観察するというものでした。双眼鏡で観るサギの羽は、白く美しく、数日前に顕微鏡で見たハエの顔とはまったくの別物のように愛おしいものでした。(ハエのこと、根に持ってるわけじゃないですよ)
他には、大学構内を教授たちと練り歩いて様々な雑草を同定したり、標本をつくったり。ある特定の細菌を増殖させてみたり。研究のほんの一端とはいえ、実際に体験してみないとわからないことが多い世界なので、真剣に取り組みさえすれば非常に有意義な時間であったと思います。
自分の研究分野は自分で決める
このように、10個前後ある研究室の紹介実習は1年間かけて行われるのです。
そんな中、当然、人気のある研究室、そうでない研究室が出てくるわけで。。各研究室はあれやこれやで人気獲得に努めるのです。
ある研究室では、実習の後で参加費無料の飲み会を開いてくれたりしました。わかりやすくエサで釣る作戦ですね。大学生は胃袋を抑えられると非常に傾きやすい(個人見解)。
また他の研究室の実習では、自らの研究室に所属するイケメンな先輩や人気のある先輩たちを連れてきて、実習のサポートを頼んだりと、各々持てる武器を最大限に利用して3年生を勧誘するのです。
仲間とのお別れ
そのような誘惑に乗ったり乗らなかったりで、3年生が終わる頃には自分の所属する研究室を決定するわけです。
その結果、入学以来、苦楽をともにした仲間たちと、ここでお別れになることがあるのです。いくら仲が良い友達であっても、自分の研究分野は自分で決めるしかないのです。それが異なるときは、ここでお別れとなるのです。
「別れ」なんて大げさな!と感じてらっしゃる方も多いと思いますが、決してこれは大げさなんかじゃないのです!
研究室単位での大学生活
理学部において、どこかの研究室に所属するということは、それ以降の大学生活はすべて研究室単位で時間が流れていくということなのです。文系学部でいう「ゼミ」とは大きく異なります。
1時間目、2時間目、昼休み、チャイム、などという概念が無くなり、大学に行ったら研究室に登校するのです。お昼ご飯はいつ食べてもいいし、食べない人もいます。
帰る時間もみんなバラバラです。
なんなら家に帰らない人もいたりします。歯ブラシ、寝袋を研究室に持ち込みだすと、「あ、この人、もう住む気やな。」ってなります。
教授や先輩が学会で発表する際も、研究室単位で長距離移動したり、そのままついでにみんなで旅行したり、学校の時間割とは程遠い生活になっていきます。
上記のような研究室の拘束力は、すべてボスである教授の方針で決まります。
中には、研究室に個人のタイムカードがあって、やることがあっても無くても10時間以上研究室に滞在しないと単位をとらせない、という所もありました。
他には、週に1日、英語しか話してはいけない日がある研究室などもありました。
ちゃんと生きて、卒論を書く
私が所属していた生態学の研究室なんかは、フィールドワーク中心の研究室なので、大学の研究室にはほとんど人がいませんでした。アマゾンで数カ月間、魚の生態調査を行っている人もいれば、日本の離れ小島で鳥の観察を続けている人がいたりと、出席どころか生存確認すらとれないような研究室でした。
こんな研究室の場合は、「ちゃんと生きて」「卒論を書く」ができていれば、研究室への出席日数は不問ということです。
楽園 or 地獄
いろんな研究室がありますが、共通して言えることは、研究室が1つのファミリーであるということです。
4年生はそのファミリーの最年少として研究のノウハウを叩きこまれ、1年かけて卒論を書きあげるのです。つまり、4年生(学部生)は、研究室ごとで決められたルールに従い、研究室メンバーが納得する卒論さえ書きあげれば、卒論発表をもって無事に大学卒業となるのです。
ここまでの話で、ちょっと研究室に所属することを怖く感じた人もいるでしょう。
でも、思い出していただきたい。
そもそも生物学科は、「少数派の生物学好きな仲間の集まり」でした。その中で、さらに特定の分野が好きな人たちが集まるのが「研究室」なのです。もうここまでくると、社会に出たあとには二度とできないようなコアな生物トークができる、血縁関係のない家族同然です。
生物が好きで入学するのであれば、何も恐れることはありません。1年くらい世間離れしてみるのも経験の1つです!
きっと卒業時には研究室が第二の故郷となることでしょう。
繰り返しになりますが、理学部生物学科について、入学の段階から一貫して言えることは、
「生物学が好きなら楽園」
「なんとなく、で来てしまうと地獄」
ということです。
さて、以上のことから、理学部生物学科の「研究室」システムと「卒業方法」については知っていただけたかと思います。
しかし、「研究室に所属して、実際にどうやって卒論を書くの?」「あれ? そういえばいつ就活してた?」という謎が残ったのではないでしょうか。
もうここまで来たら、ぜひ後編までお付き合いください。続きは、「【後編】理学部の歩き方 ~どんなことを学ぶの?~」にてお話いたします。
(ひろっこりー)