今回は「電子書籍の普及」に関するエッセイの例を示します。そして、ロジカルノーツでは、これを「悪い例」として扱います。
電子書籍という「新しい書籍のあり方」が登場し、従来からの紙媒体書籍との競合関係が生じてきています。
「電子書籍の普及」について肯定的立場、否定的立場のいずれに立ったとしても「すでに普及している紙媒体書籍」との区別にあたる情報を示すように心がけたいところです。そうすることによって、電子書籍の特徴が明らかになるからです。
このとき、「電子書籍は紙媒体書籍と何が違うのか」という点を念頭に置いて、言語化すべき情報を決定しなければなりません。
なお、「区別のトレーニング」の説明の便宜上、電子書籍の普及に否定的な見解を紹介しています。
悪い例
「電子書籍の普及について」
スマートフォンやタブレットなどの携帯端末の普及により、電子書籍が一般化してきている。従来からの紙媒体書籍と比べると、書籍自体に関する物理的スペースが不要であるため保管面でのメリットは大きい。また、電子書籍の場合、「読みたい」と思ってから実際に読むことができる状態に至るまでの時間が短い。さらに、購入する際に書店へ足を運ぶ必要もない。
しかしながら、上記のことはデメリットにもなり得る。利便性の高さはメリットにもなるが、その反面、安易な利用を促すからだ。本棚の空き状況を考えずに次々と購入し、何を読むかを深く検討しない。そのような書籍選びをしていると、入手したものとじっくり時間をかけて向き合わなくなるだろう。
本を通じて何かを得るのが読書の本来のあり方だ。電子書籍が普及することによって、これが失われることは大きな問題である。じっくりと自分に必要な本を選び、書き込みなどをして一冊の本から得られるものを最大化する。紙媒体書籍が築き上げてきた知の伝統が損なわれる事態を回避するべきではないか。
また、電子書籍が普及することによって、生活に密着した小規模書店の経営が難しくなることも問題だ。大規模書店が存在するエリアでなければ、身近に書店がないという事態が発生しかねない。そうすると、自分に合う書籍と出会う可能性が小さくなってしまう。そして、電子書籍が普及しても生き残れるだろう大規模書店は都市部にあることが多く、書籍を通じた知的生活を送る機会の不平等が発生するのも問題だ。
以上より、私は電子書籍の普及に否定的な見解を有している。
上記エッセイの問題点
全体的に「区別の意識」が希薄なエッセイになっています。言葉というものの役割は多様だと思いますが、「他のものとの区別のための道具だ」という意識を強くもっていないと「何が言いたいのか」がわからない事態を招きます。
次回以降の記事において、第1段落~第4段落の記述中にある問題点を示したいと思います。
(吉崎崇史)