「一斉放送」型か「ヘッドホン・イヤホン」型か
会話などの口頭におけるコミュニケーションの場面では、リスニング力とスピーキング力の両方が要求されます。そのため、熟練した面接官とまとまった時間の会話をするテストがあれば、リスニング力とスピーキング力の両方を審査することが可能でしょう。
しかしながら、受験生が多数になる場合には、そのためのマンパワーの確保が困難です。この場合、現実的にはリスニングとスピーキングのテストを別に行うことにならざるを得ません。
効率的にリスニングテストを実施しなければならない場合、あらかじめ録音された音声情報が用いられます。このとき、その情報をリスニングできたかどうかを試す問題を解くことによって技能が評価されます。
あらかじめ録音された音声情報をリスニングするという点では同じであっても、その情報がどのように与えられるのかはテストによって異なります。受験生によっては「一斉放送」型(一斉方式)と「ヘッドホン・イヤホン」型(個別音源方式)の違いが大きな差異をもたらすことも少なくありません。
例
「ヘッドホン・イヤホン」型の典型的な例として挙げられるのが、大学入試センター試験です。2006年度から開始されたセンター試験のリスニングでは、受験者1人ひとりにICプレイヤーが配布されて行われる個別音源方式が採用されています。これに対し、いわゆるセンター試験模試は一斉方式で行われることがほとんどです。
次に、英語4技能を測定する民間テストを見てみましょう。TOEFL iBTでは受検者1人につき1台のコンピュータが割り当てられるので、イヤホンを用いた個別音源方式が採用されています。他方、TOEFL iBTを除くほとんどのテストでは一斉方式が採用されています。
最後に、個別に行われる大学入試のリスニングテストについて言及させていただきますと、ほとんどの場合、受験生がテストを受ける教室ごとに一斉に音声を流して聞き取らせる方式が採用されています。
考察
会場に集まった受験生が「一斉放送」というかたちで音声情報に接する場合、さまざまなノイズも同時に聴くことになります。日常生活の中で要求されるリスニング力には無数にある音の中から必要な音声情報を聴くことに集中する力も含まれますので、一斉方式はリアルライフに近いリスニング力を試すものと言えるでしょう。
一斉方式と比べてノイズが少ないので、個別音源方式に取り組みやすさを感じる人は多いです。しかしながら、ヘッドホン・イヤホンを着用することに違和感を覚える人もいますので、自分に合う方式を見極め、高スコアを目指せる環境を選択したいところです。
日常生活で「リスニングだけでよい」場面はほとんどありません。会話はリスニングとスピーキングが複雑に絡み合った営みですし、何らかの作業をしながらリスニングすることも多いのではないでしょうか。このように考えると、リスニングテスト対策は「テストのためのトレーニング」という面が非常に強いように感じます。
「高スコアを出すのが目的だ」と割り切って考えるならば、高スコアを目指せるテストを選ぶのに躊躇する必要はありません。受けるテストに慣れることも重要です。ある意味、リスニングテストは、4技能テストの中で最も戦略的思考が要求されるのではないでしょうか。
(吉崎崇史・鈴木順一)