「会話」か「1人語り」か
スピーキングテストを受けた経験のある人は多くないかと思います。ざっくり言えば、次の2つの実施方法があります。
- 試験官の前で話す方法(「会話」型)
- 録音機の前で話す方法(「1人語り」型)
これまでにリーディングテスト、ライティングテスト、リスニングテストのそれぞれにおける実施方法の違いを考察してまいりました。今回の記事で扱う「スピーキングテストの実施方法の違い」が受験生にとって最も大きな悩みの種になるような気がします。
例
「会話」型の例として挙げられるのが、英検のスピーキングテストです。試験官から出されるお題に対して返答を求められる形式ですから、まさに試験官と「会話」をする力が試されています。それに伴い英検3級から準1級のスピーキングテストには「アティチュード」という採点項目があり、これは「積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度」を確認します。つまり、英検のスピーキングは「英語を用いての会話・コミュニーケション能力」を測定しいている、と考えることができます。
一方で、「1人語り」型の例として挙げられるのがGTECのスピーキングテストです。GTECではスピーキング以外の3技能についてはペーパーベースのテストが行われていますが、スピーキングのテスト時には受検者1人ひとりにタブレットが配布されます。英文を読み上げたり、自分の意見を英語で述べたりする力が試されますが、全てタブレットに向かって話すという形式をとっています。これはTOEFL iBTにおいても同じで、コンピュータスクリーンに向かって1人で英語を話すという形式が採用されています。
また、「会話」型の例として挙げた英検ですが、1級においては「1人語り」型も採用されています。英検1級のスピーキングテストでは「スピーチ」という問題形式があり、この問題では、あるお題に対して自分の意見を論理立てて英語で話す力が問われます。途中で試験官からの相槌や質問をされたりすることなく、「1人語り」が求められるわけです。
考察
想像してみましょう。友人とお喋りをする場面とクラスメイトの前でスピーチをする場面。ほとんどの人は前者の場面の方が楽に感じるのではないでしょうか。
厳密に考えれば、話し相手の条件も整えないといけませんね。もう一度、想像してみましょう。5人の友人たちに囲まれ、その中でお互いに言葉を交わし合って情報を伝える場面。5人の友人たちの前に立ってスピーチをする場面。どうでしょうか?
「会話」よりも「1人語り」の方がやりにくさを感じる人は多いように思います。Marco Iacoboni(塩原通緒訳)「ミラーニューロンの発見」早川書房(2009)によると、計画の立てやすさ、話すペースのコントロールのしやすさ、話し手と聞き手の役割交換の有無などを考慮すれば、負担の大きな認知作業を伴う「会話」の方が難しいはずだとのこと。それにもかかわらず、「1人語り」の方がやりにくいのはなぜなのでしょうか。同書によれば、「会話」の方を容易に感じるのは、視線や体の動きなどの非言語的コミュニケーションの助けによるところも大きいとされています。
本記事執筆者たちは予備校講師として、①会話形式の個別指導、②スピーチ形式の集団指導の経験があり、やはり会話形式の①の方が気楽に言葉を使えている実感があります。また、③授業動画の録画の際には、②以上に緊張します。振り返ってみますと、聞き手の反応の有無や程度が大きな理由であるように思います。聞き手の反応が大きい①の方が②よりも楽で、聞き手の反応がリアルタイムで確認できない③のときに最も大きな負担を感じます。
この①②③の観点を冒頭に示したスピーキングテストの実施方法にあてはめて考えてみます。
- 試験官の前で話す方法(「会話」型)→ ①(負担小)
- 録音機の前で話す方法(「1人語り」型)→ ③(負担大)
あくまで個人的なスピーキング経験に照らしただけですが、「1人語り」型のスピーキングテストを受ける場合には特別な準備をした方がよいように感じます。どのような場合に負担感を覚えるかは人によりますが、少なくともスピーキングテストの実施方法の違いが自身のパフォーマンスに及ぼす影響を考えておいた方がよいでしょう。
(吉崎崇史・鈴木順一)