「消去法」じゃない解き方
センター試験のような選択肢型問題においては、選択肢に書かれている内容を細かく分析し、「課題文と整合しない情報」が含まれている肢を消去する方法(いわゆる「消去法」)を武器に戦う人が少なくありません。
しかしながら、「消去法」は解法テクニックとして万能とは言えず、また、何よりも「粗探しの思考」に基づく方法なので「情報の発信力を高める」経験にはなりません。
「これからの人たちに必要なスキルは何なのか」を考えたい私たちロジカルノーツとしましては、「『消去法』ではない解き方のトレーニングの重要性」を訴えたいと思っています。
- 「×」を探す消去法
これは既に存在している言葉の「粗探し」をする思考に基づくものであって、「何かを生み出す」思考ではありません。
- 「◎」を探す方法
これは、問題の指示(何が聞かれているのか)をもとに、答に必要な情報(何を言えばよいのか)を考える方法です。情報の発信力の基礎となる「何を言えばよいのか」の判断を要します。受験テクニック的な「消去法」とは異なり、「本来、現代文で試されるべき力」で勝負する方法です。このトレーニングを重ねていれば、情報の発信力を試す記述型問題にも対応できるでしょう。
抽象的な方法論を述べてもつまらないので、具体例を用いて説明したいと思います。今回は、問題の入手のしやすさを重視し、センター試験の過去問を扱います。
2013年度センター試験(本試験)国語第1問【問4】
2013年度(本試験)国語第1問は「小林秀雄『鐔』」を素材に作られた問題です。
課題文では「応仁の乱を境に、刀の鐔(つば)が変化した」という事実の紹介がなされた後、次の話が続きます。今回の記事に必要な部分だけを引用していますので、関心のある方は、過去問を入手してみてください。
鉄の地金に、鑿で文様を抜いた鐔を透鐔と言うが、この透というものが鐔の最初の化粧であり、彫や象嵌が発達しても、鐔の基本的な装飾たる事を止めない。…(中略)…もし鉄に生があるなら、水をやれば、文様透は芽を出したであろう。装飾は、実用と手を握っている。透の美しさは、鐔の堅牢と軽快とを語り、これを保証しているところにある。
ー 小林秀雄「鐔」
この部分に関する問題は次の問4です。
問4
「もし鉄に生があるなら、水をやれば、文様透は芽を出したであろう。」とあるが、それはどういうことをたとえているか。【5択問題】
ー 2013年度センター試験(本)国語第1問
選択肢に頼らずに解く
問4は「もし鉄に生があるなら、水をやれば、文様透は芽を出したであろう」という比喩表現についての問題です。
「鉄に生命があるならば、『水をやれば』すなわち『生き続けていれば』、文様透が出現しただろう」と言っています。「『鉄』を素材にして鐔(つば)を作ったこと」から「『文様透』という装飾に辿り着くこと」は自然の流れであるということです。その理由については「装飾は…」以下で述べられています。
「装飾は、実用と手を握っている」という表現は、「装飾と実用の関連性」を示したものです。「ただ綺麗なだけではダメで、実際に使用する場面を想定した装飾でないといけない」と読み替えてもよいでしょう。
その後、「透の美しさは、鐔の堅牢と軽快とを語り、これを保証しているところにある」という表現が続きます。「透という装飾が美しいのは、鐔(つば)の堅牢と軽快を実現しているからだ」という内容です。
刀という武器の一部分ですので、鐔(つば)は堅牢でないといけません。鐔(つば)が堅くないと、手を守ること、命を守ることができません。そのニーズに応えるために鉄を素材にして鐔(つば)を作ることになったのでしょう。しかしながら、鉄を素材にして鐔(つば)を作ると、重さの問題が生じます。鐔(つば)が重いと実戦の場面で刀を扱うのに支障が生じますので、「堅さと軽さを両立させよう」と考えた結果、鉄の鐔(つば)を鑿(のみ)でくり抜くことになったということです。
- Q:「もし鉄に生があるなら、水をやれば、文様透は芽を出したであろう。」とあるが、それはどういうことをたとえているか。
- A:「鉄を素材にして鐔(つば)を作ったことによって堅さと軽さを両立させる必要が生じ、その結果として透というアイデアに至ったのは自然なことだ」ということをたとえている。
選択肢の検討
上記Q&Aをもとに考えると、問4の答に必要な情報は「堅さと軽さの両立」となります。
では、選択肢を確認してみましょう。
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実用的な鐔を作るためには鉄が最も確かな素材であったので、いくつもの流派が出現することによって文様透の形状は様々に変化していっても、常に鉄のみがその地金であり続けたことをたとえている。
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刀剣を実戦で使用できるようにするために鐔の強度と軽さを追求していく過程で、鉄という素材の質に見合った透がおのずと生み出され、日常的な物をかたどる美しい文様が出現したことをたとえている。
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乱世において武器として活用することができる刀剣の一部として鉄を鍛えていくうちに、長い伝統を反映して必然的に自然の美を表現するようになり、それが美しい文様の始原となったことをたとえている。
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「下克上」の時代において地金を鍛える技術が進歩し、鐔の素材に巧緻な装飾をほどこすことができるようになったため、生命力をより力強く表現した文様が彫られるようになっていったことをたとえている。
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鐔が実用品として多く生産されるようになるにしたがって、刀匠や甲冑師といった人々の技量も上がり、日常的な物の形を写実的な文様として硬い地金に彫り抜くことが可能になったことをたとえている。
太字で示した通り、答に必要な情報である「堅さと軽さの両立」について言及しているのは肢2のみとなります。
仮にこの問題を「『×』を探す消去法」で解くとなると、何度も何度も課題文と選択肢の見比べ作業が必要となり、非常に時間がかかります。今回の記事で紹介した「『◎』を探す一本釣り的な解き方」であれば、短時間で正解に辿り着くことが可能です。
「マークシート型・選択肢型問題では高スコアを獲得できるのに、記述型問題や小論文問題に対応できない」という人からは「何を言えばよいのかがわからない」との声を聞くことが少なくありません。「消去法」の練習ばかりをし続けて「どのような情報を示すべきなのか」を考えるトレーニングをしてこなければ、このような事態に陥るのも仕方ないような気もします。
記述型問題や小論文問題に対処するため、社会に出たときに必要なスキルを高めるため。あるいは、「自分の言葉でものを伝える力」を高めて人生を楽しむため。粗探しのスキルだけでなく、「何を言えばよいのか」を考えるトレーニングを受験勉強の中に取り入れてみてはいかがでしょうか。
(吉崎崇史)