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Pleaseから考えるあれこれ

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丁寧に頼むときに使われる「Please」


「please」には「表現を丁寧にする」という働きがあります。

 

  • Bring me some water. (私にお水を持って来て。)


例えば、この言葉は、命令文であり話し手が相手に水を持ってくるように依頼しているわけですが、

 

  • Please bring me some water. (お水を持って来てくれませんか。)


「Please」を用いることで、より丁寧に相手に依頼をすることが可能になります。

 

薬は「誰のために」飲むものか?


「表現を丁寧にする」という働きだけを覚えてしまって「please」を使うと、間違えた使用につながってしまいかねません。

 

  • Please take two pills a day.


この英文は通例、間違いとされます。


「Take two pills a day.」だけで「1日に2錠飲んでください。」の意味になります。医師や薬剤師が患者に向けて発言している場面を想定しましょう。


これに「Please」をつけることなぜ問題なのでしょうか

 

  • 丁寧に言いたいときに「Please」って言えばいいんじゃないの?


この誤解を解消するためには、「please」という語の持つとされる「表現を丁寧にする働き」以上の何かを理解する必要があります。


「please」の(間投詞としての)働きは「話し手に利益となる要請・依頼・命令を和らげる」(「ウィズダム英和辞典」より)ことが挙げられます。


今回の「1日に2錠飲んでください」という内容から考えると、「話し手である医師や薬剤師」「聞き手である患者」に対して「薬を1日に2錠飲むこと」を要請しているわけですから、これは決して「話し手(医師や薬剤師)の利益となる要請」であるとは考えられません。むしろ「聞き手(患者)の利益となる要請」です。


Please take two pills a day.」間違いとされる理由はそこにあります。

 

pleaseをさかのぼる


「Please」という語の起源ラテン語の「placēre」という動詞「滑らかにする」が原義とされています。「滑らかにする」から現代英語にも残っている「喜ばせる、意に適う」という意味へと変移したようです。


次に、現代英語の動詞「please(喜ばせる、意に適う)」いかにして「表現を丁寧」にするのか、ということですが以下のように考えられています。

 

  • ①:May it please you. 「それがあなたの意に適いますように。」
  • → ②:Please (it) you.
  • → ③:Please


①の「May it please you.」はいわゆる祈願文で、「may」が祈願の意味を表します。次に②の「Please (it) you.」は①から「may」が省略されています。さらなる省略を経て、現在の英語で用いられている③の「Please」が生じた、というわけです。


もう一度、「Please bring me some water.」という一文について考えてみます。「please」「May it please you.」に戻して考えてみると、次のような意味になります。

 

  • 「水を持って来てください。そのことがあなたの意に適いますように。」


つまり、「聞き手が水を持ってくることが自分の意に適う行為であることを、話し手は望んでいる」ということになります。


このことから、「水を持ってくる行為を受け入れられるのであれば水を持って来て欲しい。」と言うことができます。


直接的に「水を取って来てください。」と依頼をするのではなく、「その行為を受け入れられるなら、水を取って来てください。」条件を設けており、話し手は聞き手のことを気にかけながら依頼をしているわけです。


こうして、「please」には「話し手に利益となる要請・依頼・命令を和らげる」という働きが加わったと考えられます。

 

pleaseの働きの広がり


それでは最後に次の英文が発話される状況を想定してみましょう。

 

  • Please sit down.


先ほどの「please」の働きを考えると「話し手の利益となるために、聞き手に座ること・着席を求めている」わけですから、「聞き手が原因で話し手の視界が遮られている」などという状況を想定することができます。


加えて、「Please sit down.」という一文を、先ほど述べた「May it please you.」という本来の意味と共に別の角度から考えてみましょう。

 

  • 「席についてください。そのことがあなたの意に適いますように。」


つまり、「聞き手が席に着くことが自分の意に適うことを、話し手は望んでいる」ということですから、「よろしければお座りください。」「どうぞお掛けください。」というように、「please」を用いることで「聞き手に利益がある命令を和らげる」ことも可能であるとわかります。


ここでのポイントは、「聞き手に利益がもたらされることで、話し手にも喜びがもたらされ負い目が解消される」ということです。その目的のためにも話し手は祈願しているわけです。


よって、「Please sit down.」の一文によって、話し手のため「(前が見えないので)座ってください。」と丁寧に依頼することもできれば、話し手と聞き手の双方のため「どうぞお座りください。」とも表現できるわけです。


(鈴木順一)

 

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