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「なぜ?」を考える英語リーディング

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「英語が読める」とは?

 


日本で暮らしていると「英語を読む力」が様々な形で求められることがあります。学生であれば教科として英語が課されますし、ビジネスパーソンであれば仕事上でEメール書類を英語で理解しなければならないかもしれません。教育やビジネスの文脈を離れても、外国から品物を取り寄せたい時に、英語で書かれたウェブサイトを読み進める必要もあるかもしれません。


このように様々な文脈で「英語を読む力」が求められているわけですが、「英語が読める」という定義コンテキストによって大きく変わるのではないかと思います。

 

学生であれば「テストでいい点数が取れること」が英語を読めていることかもしれませんし、ビジネスパーソンであればメールの内容が理解できて相手が求める適切な返信が可能であれば、十分に英語を読めているのでしょう。オンラインショッピングであれば、欲しい商品が手に入れば英語を読めていると言えます。


ここで、1つ英文を紹介します。

 

As the world focuses on the pandemic, experts fear losing ground in the long fight against other infectious diseases like AIDS, tuberculosis and cholera that kill millions every year. Also at risk are decadeslong efforts that allowed the World Health Organization to set target dates for eradicating malaria, polio and other illnesses.


 - ANIRUDDHA GHOSAL AND VICTORIA MILKO / AP APRIL 16, 2020


この英文はTIMEのウェブサイト「Experts Fear Focus on Coronavirus Could Erode Global Fight Against Other Diseases」という記事の第4パラグラフにあたる英文です。

 

time.com


この英文に至るまでの内容を簡単にまとめると、「インドのムンバイに暮らすある女性がコロナウィルス蔓延によるロックダウンの影響で必要な薬を手に入れられなくなっており、彼女のようにコロナウィルスに感染はしていないがこのウィルスが原因で苦しんでいる人々がいる」という主旨です。


この流れを踏まえてもう一度先ほどの英文を読んでみてください。特に下線部に注意してください。


As the world focuses on the pandemic, experts fear losing ground in the long fight against other infectious diseases like AIDS, tuberculosis and cholera that kill millions every year. Also at risk are decadeslong efforts that allowed the World Health Organization to set target dates for eradicating malaria, polio and other illnesses.

 

日本語に直せれば「英語が読めている」?

 


1文目の意味は、「世界がコロナウィルスの世界的流行に関心を寄せている中で、毎年何百万人もの人々が亡くなる原因となっているエイズやコレラといった他の感染症との長きにわたる戦いに負けてしまうことを専門家たちは恐れている。」くらいでしょう。


次に、下線部である2文目ですが、意味としては「また危険にさらされているのは、世界保健機構がマラリアやポリオ、その他の病気を根絶する目標期日を定めることが可能になったこれまでの数十年にわたる活動である。」くらいになります。


この英文の構文的な解説を少しすると、主語decadeslong efforts動詞areです。that以下は主語であるdecadeslong effortsを修飾しています。文頭にあるAlso at riskat riskの部分補語にあたります。


よって、「分かりやすい」語順に並び替えると、次のようになります。


Decadeslong efforts (that…) are also at risk. 

「(that…)な数十年にわたる行動もまた危険にさらされている。」

 

「なぜか?」を考える

 


上記のように語順を並び替えると、いわゆるSVCの構文をとるシンプルな英文であることが分かると思います。


では、なぜ実際の英文は「分かりやすい」語順で書かれていないのでしょうか?


答えは英文の情報構造的な点にあります。次の日本語の文を見てください。


ーーー


「私の家の近くには大きな工場があります。」

 

  • (1)その工場ではたくさんの人々が一緒になって自動車を作っています。
  • (2)たくさんの人々が一緒になって自動車をその工場では作っています。


ーーー


出だしの文(私の家の近くには大きな工場があります。)に続いて(1)と(2)の文を読む場合に、おそらく(1)の文が出だしの文から自然につながっていくと感じられるのではないでしょうか。(2)はこの1文だけを読んだ場合にはとりわけて不自然さは感じられません。しかし、出だしの文からつなげて読むと何か違和感を覚えてしまう人もいるかと思います。


仮に出だしの文に続く文として(1)と(2)のいずれかを選べと求められれば、多くの日本語ネイティブ話者は(1)を選ぶのではないかと思います。しかし、なぜ(2)ではダメなのでしょうか。なぜか覚えてしまう「違和感」の原因は一体何なのでしょうか。


この違和感の1つの原因は「情報を出す順番」にあります。出だしの文である「私の家の近くには大きな工場があります。」では、「大きな工場」焦点が当たっています。

 

この文に(1)をつなげてみると、


「私の家の近くには大きな工場があります。その工場ではたくさんの人々が一緒になって自動車を作っています。」


となり、「大きな工場」「その工場では」という部分の物理的な距離が近く、読む方にとっても情報の処理がしやすくなります


一方で、出だしの文に(2)をつなげてみると、


「私の家の近くには大きな工場があります。たくさんの人々が一緒になって自動車をその工場では作っています。」


となります。1文目「大きな工場」をテーマに掲げていながら、2文目の冒頭「たくさんの人々」「自動車」という新しいテーマを導入していることから、読む方にとっては一種の情報過多になってしまうことがあります。「大きな工場の話をしていたのに、たくさんの人や自動車は何の関係があるのか?」と読み手の頭は思ってしまうわけです。


文字の形で読む場合であれば、状況が許せば読み返すことができますから大きな問題はありませんが、仮に先程の(2)を加えた文を耳で聞いている場合には情報処理がより難しくなります。「工場の話だな」と思いきや、「たくさんの人々」や「自動車」の話が続けられるので聞き手の頭が混乱させられてしまうことがあるでしょう。


聞く方の立場に立つと、


「私の家の近くには大きな工場があります。その工場では・・・」


という流れで話されれば、「工場の話だな。それで、その工場では・・・」というように頭が情報を処理しやすくなります。1文目の「大きな工場」2文目の「その工場では」時間的距離が短いことが処理を容易にしているわけです。

 

読み手や聞き手の立場に立った文

 


ここでもう一度先ほどの英文を見てみましょう。


As the world focuses on the pandemic, experts fear losing ground in the long fight against other infectious diseases like AIDS, tuberculosis and cholera that kill millions every year. Also at risk are decadeslong efforts that allowed the World Health Organization to set target dates for eradicating malaria, polio and other illnesses.


下線部の文頭の語順の理由を考えていたわけですが、そのためにも下線部の前の1文の内容をもう一度確認しましょう。


As the world focuses on the pandemic, experts fear losing ground in the long fight against other infectious diseases like AIDS, tuberculosis and cholera that kill millions every year.

「世界がコロナウィルスの世界的流行に関心を寄せている中で、毎年何百万人もの人々が亡くなる原因となっているエイズやコレラといった他の感染症との長きにわたる戦いに負けてしまうことを専門家たちは恐れている。」


内容を簡潔にまとめると、「コロナウィルスが原因で他の感染症に対する対応が危険に晒されている、ということを専門家たちは懸念している」といったところでしょうか。


これを受けて下線部の冒頭部分を読んでみると、


Also at risk are decadeslong efforts that …

「また危険に晒されているのは、(that…)な数十年に渡る活動である。」


日本語の部分だけ、1文目下線部の冒頭をつなげてみます。


「世界がコロナウィルスの世界的流行に関心を寄せている中で、毎年何百万人もの人々が亡くなる原因となっているエイズやコレラといった他の感染症との長きにわたる戦いに負けてしまうことを専門家たちは恐れている。」「また危険に晒されているのは、(that…)な数十年に渡る活動である。」


このように意味するところをつなげてみると、1文目「他の感染症との戦いに負けてしまうこと」という「危険」を1つ挙げ、2文目の文頭「また危険に晒されているのは、」と承前しています。こうすることで、読者にとっては、2つの文の間の流れをスムーズに読み取ることができ、下線部decadeslong efforts that…「新しいテーマ」であることが分かりやすくなります。

 

私にとっての「英文を読む」

 


私自身のことを少し書きますと、大学入学後まもなくしてアルバイト英語高校生に教え始めました。外国語学部に入学していたこともあり、ある程度「英語ができる」と考えてはいましたが、自分が英語ができること学生に英語を教えられることはやはり異なりました


高校生までの私の英語学習は体系的なものではなく、「なんとなく単語の意味をつなぎ合わせれば英語は読める」といった感じで学習を進めていました。しかし、学生に英語を教えるためには「なぜ」の部分を伝える必要があることを経験から知り、この時に初めて文法を学ぶことの大切さを実感しました。


英語を教えるようになってから15年以上が経ちますが、私自身いまだに英語の全てを理解しているはずはなく、新しいことを学ぶ日々が続いています。正直なところ、私自身は教え始めた当初、それほど英語が好きというわけではありませんでした。大学時代に英語を専攻として勉強していたわけでもありません。しかし、教えることを通じて文法を学び、英語、そして言語を学ぶことの楽しさを知りました。これは外国語学習に限定されるわけではなく、母語である日本語についてもそうです。


母語であるために日本語を不自由なく使えてしまうわけで、日本語という言語を意識する機会が日常的には少ないですが、英語を学ぶ中で日本語との比較対照を行ったり、英語を日本語に直す過程国語辞書を引いてみたり、国語の先生に質問をしてみたり、試行錯誤の中で新しい発見をしています。


私にとっての「英文を読む」というのは、意味内容を理解することはもちろんですが、読むという行為に伴って意識的に調べごとをすることなのかもしれません。


(鈴木順一)

 

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