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現代文の新傾向 - センター試験2016(本試験)国語第1問

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【新傾向】話し合っている状況の把握


最近のセンター試験現代文では、1つのテーマについて複数の人が意見を交わし合っている状況を把握する力も試されるようになってきています。


今回扱う2016(本試験)では、課題文を読んだ5人の生徒の「話し合いの把握」問題が出題されました。このような問題は1995年や1996年にも出題されていましたが、長らく封印(?)されていました。そして、「話し合いの把握」問題が2016(本試験)で再び注目を集め、その後もこの新傾向の問題が出題されています。


これはセンター試験だけの傾向ではありません。近年の高等学校卒業程度認定試験(いわゆる高卒認定試験)でも「話し合いの把握」問題が出題される傾向にあります。

 

新傾向問題である「話し合いの把握」問題では、従来からの筆者・作者の言葉を読解する力を試す問題と違い、「それぞれの人が何の話をしているのか」を把握しなければなりません。この新傾向の出題が目立ち始めているのは、アクティブラーニングが重視されていることとも関係がありそうです。

 

  • よくある問題:ひとりの人(筆者・作者)の言葉を読解
  • 新傾向の問題:複数の人(話し合っている人)の言葉を読解


社会生活の中でさまざまな人とコミュニケーションをとる状況を想定してみますと、実践的な日本語能力を試す出題の存在感が増してきたことは歓迎すべきことだと思います。

 

センター試験2016(本試験)国語第1問


今回の記事で扱いたいのは、センター試験2016(本試験)国語第1問土井隆義「キャラ化する/される子どもたち」が課題文です。


ざっくりと内容をまとめると「アイデンティティの確立が目指されていた昔と異なり、現在は状況に応じたキャラを演じる時代になってきた」というお話。リカちゃん人形、ハローキティ、ミッフィーなどの身近な例を挙げ、また、百貨店からコンビニの時代に変わってきたことやメイドカフェの流行などの現代社会の風潮も踏まえた評論文です。これからの人たちにさまざまな示唆を与えるものだと思いますので、大学進学前の段階でこの課題文に触れる幸運に恵まれた受験生を羨ましく感じます。

 

【新傾向】問5

問題の指示


問5が新傾向の問題です。まず、問題の指示を紹介します。

 

次に示すのは、この文章を読んだ5人の生徒が、「誠実さ」を話題にしている場面である。傍線部D「価値観が多元化した相対性の時代には、誠実さの基準も変わっていかざるをえないのです。」という本文の趣旨に最も近い発言を、次の①~⑤のうちから1つ選べ。


「『価値観が多元化した相対性の時代には、誠実さの基準も変わっていかざるをえないのです。』が課題文の趣旨である」と出題者が明示しています。この傍線部Dの内容をおさえることが問5を解く鍵となります。


「価値観が多元化した」とありますので、「それまでは価値観が多元化していなかった」ということです。「時代が変わった」という変化の話を読み取る必要があります。

 

  • 傍線部D:時代が変わった。だから、誠実さの基準も変わっていかざるをえない。

 

この順接関係を意識したいところです。

 

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選択肢


次に、①~⑤の選択肢を紹介します。

 

  • ①:生徒Aー現代では、様々な価値観が認められていて、絶対的に正しいとされる考え方なんて存在しないよね。でも、そんな時代だからこそ、自分の中に確固とした信念をもたなくてはいけないはず。他者に対して誠実であろうとするときには、自分が信じる正しさを貫き通さないと、って思う。

 

  • ②:生徒Bーえっ、そう?   今の時代、自分の信念を貫き通せる人なんて、そんなにいないんじゃないかな。何が正しいか、よく分からない時代だし。状況に応じて態度やふるまいが変わるのも仕方がないよ。そういう意味で、キャラを演じ分けることも1つの誠実さだと思うんだけど。

 

  • ③:生徒Cーたしかに、キャラを演じ分けることは大切になってくるだろうね。でも、いろんなキャラを演じているうちに、自分を見失ってしまう危険がある。だから、どんなときでも自分らしさを忘れないように意識すべきだと思う。他者よりも、まずは自分に対して誠実でなくっちゃ。

 

  • ④:生徒Dーうーん、自分らしさって本当に必要なのかな?   外キャラの呈示が当たり前になっている現代では、自分の意見や感情を前面に出すのは、むしろ不誠実なことだと見なされているよ。自分らしさを抑えて、キャラになりきることのほうが重要なのでは?

 

  • ⑤:生徒Eー自分らしさにこだわるのも、こだわらないのも自由。それが「相対性の時代」ってことでしょ。キャラを演じてもいいし、演じなくてもいい。相手が何を考えているかなんて、誰にも分からないんだから、他者に対する誠実さそのものが成り立たない時代に来ているんだよ。


以下では「話し合いの把握」という観点で各発言・各選択肢を検討してみます。

 

各発言・各選択肢の検討


各選択肢の検討に入る前に、傍線部Dを再度示します。

 

傍線部D:価値観が多元化した相対性の時代には、誠実さの基準も変わっていかざるをえないのです。


「時代が変わった。だから、誠実さの基準も変わっていかざるをえない。」という順接関係に着目しますと、肢①が傍線部Dと合わないことがすぐに判断できます。

 

  • ①:生徒Aー現代では、様々な価値観が認められていて、絶対的に正しいとされる考え方なんて存在しないよね。でも、そんな時代だからこそ、自分の中に確固とした信念をもたなくてはいけないはず。他者に対して誠実であろうとするときには、自分が信じる正しさを貫き通さないと、って思う。


「でも」という逆接表現に着目しましょう。「でも」の前では「現代では、様々な価値観が認められていて、絶対的に正しいとされる考え方なんて存在しないよね」という表現を用いて「時代が変わった」旨が示されています。


傍線部D「時代が変わった」という情報から順接関係にある情報が示されていますので、逆接関係にある情報を示している肢①は傍線部Dと合いません

 

  • 傍線部D:時代が変わった。だから、~
  • 選択肢①:時代が変わった。しかし、~


次に肢②を確認してみます。

 

  • ②:生徒Bーえっ、そう?   今の時代、自分の信念を貫き通せる人なんて、そんなにいないんじゃないかな。何が正しいか、よく分からない時代だし。状況に応じて態度やふるまいが変わるのも仕方がないよ。そういう意味で、キャラを演じ分けることも1つの誠実さだと思うんだけど。


「えっ、そう?」と述べることによって、生徒A(肢①)に対する反対意見を述べています。生徒A(肢①)が傍線部Dと合いませんので、この肢②は残ります

 

  • ③:生徒Cーたしかに、キャラを演じ分けることは大切になってくるだろうね。でも、いろんなキャラを演じているうちに、自分を見失ってしまう危険がある。だから、どんなときでも自分らしさを忘れないように意識すべきだと思う。他者よりも、まずは自分に対して誠実でなくっちゃ。


「たしかに、α。でも、β」の言い回しが使われていることに注目しましょう。「たしかに、α」は、自分と違う意見に対する譲歩の姿勢を示すときに使われます。その後に、「でも、β」逆接表現を用い、相手の意見に対する一定の理解を示した上で自分の意見を伝えています

 

譲歩・逆接

  • 「確かに、α。しかし、β。」
  • 「あなたのαという意見にも一理あるけども、私はβって考えたいんだよね」


「確かに、α。しかし、β。」という表現は、議論をする場面では使い勝手がよく、頻出表現です。


生徒C(肢③)は生徒B(肢②)に向けて発言しており、生徒B(肢②)は生徒A(肢①)に対する反対意見を述べています。生徒A(肢①)の内容が傍線部Dと合わないことを考えると、次のような関係を導けるでしょう。

 

  • 生徒A(肢①):傍線部Dと合わない
  • 生徒B(肢②):生徒Aに反対
  • 生徒C(肢③):「生徒Aに反対する生徒B」に反対


このように考えると、生徒A(肢①)と生徒C(肢③)の意見は同じようなものになりそうです。であれば、生徒A(肢①)が傍線部Dと合わない以上、生徒C(肢③)も合わないはずです。


もちろん、二項対立的な議論でない場合もありますので、「生徒B(肢②)と生徒C(肢③)の意見が対立しているからといって、必ずしも生徒C(肢③)が生徒A(肢①)と同じ意見になるとは限らない」ということも考えなければなりません。そのため、生徒A(肢①)と生徒C(肢③)の発言内容は確認しておきたいところではあります。今回は、生徒A(肢①)と生徒C(肢③)が同様の意見ですので、「肢③(生徒C)は傍線部Dと合わない」と結論づけることが可能です。

 

  • ④:生徒Dーうーん、自分らしさって本当に必要なのかな?   外キャラの呈示が当たり前になっている現代では、自分の意見や感情を前面に出すのは、むしろ不誠実なことだと見なされているよ。自分らしさを抑えて、キャラになりきることのほうが重要なのでは?


「うーん、自分らしさって本当に必要なのかな?」は、生徒C(肢③)の「どんなときでも自分らしさを忘れないように意識すべきだと思う」という発言に向けた反対意見です。生徒C(肢③)が傍線部Dと合いませんので、この肢④を残しておきます

 

  • ⑤:生徒Eー自分らしさにこだわるのも、こだわらないのも自由。それが「相対性の時代」ってことでしょ。キャラを演じてもいいし、演じなくてもいい。相手が何を考えているかなんて、誰にも分からないんだから、他者に対する誠実さそのものが成り立たない時代に来ているんだよ。


この生徒Eは、前の発言者である生徒Dに向けた言い回しを使っていませんので、話し合いメンバー全員に向けて発言をしていると解釈されます。そのため、「生徒A(肢①)が傍線部Dと合わない」ことを基準にできた肢②~④とは少し性格が異なります。

 

傍線部D:価値観が多元化した相対性の時代には、誠実さの基準も変わっていかざるをえないのです。


この傍線部D「誠実さの基準も変わった」ということを述べたものであり、「内容は変わったけれども、『誠実さ』そのものは存在する」ということを意味します。生徒E(肢⑤)「誠実さそのものが成り立たない」と述べていますので、傍線部Dとは合いません

 

生徒B(肢②)と生徒D(肢④)


以上の検討によって、生徒B(肢②)生徒D(肢④)が残りました。

 

  • ②:生徒Bーえっ、そう?   今の時代、自分の信念を貫き通せる人なんて、そんなにいないんじゃないかな。何が正しいか、よく分からない時代だし。状況に応じて態度やふるまいが変わるのも仕方がないよ。そういう意味で、キャラを演じ分けることも1つの誠実さだと思うんだけど。

 

  • ④:生徒Dーうーん、自分らしさって本当に必要なのかな?   外キャラの呈示が当たり前になっている現代では、自分の意見や感情を前面に出すのは、むしろ不誠実なことだと見なされているよ。自分らしさを抑えて、キャラになりきることのほうが重要なのでは?


課題文の内容を細かく確認して粗探しをすることによって解答を導くことも可能ではありますが、本記事では少し違う観点での解き方を紹介します。課題文との違いを探す「消去法」的な解き方についてはネット上でも解説が手に入りますので、そちらをお求めの方は探してみてくださいませ。

 

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傍線部D:価値観が多元化した相対性の時代には、誠実さの基準も変わっていかざるをえないのです。


ここで着目したいのは、傍線部D「誠実さの基準」の変化の話をしたものだということ。「誠実であるか否か」の基準が変わったという話です。

 

  • ②:生徒Bーえっ、そう?   今の時代、自分の信念を貫き通せる人なんて、そんなにいないんじゃないかな。何が正しいか、よく分からない時代だし。状況に応じて態度やふるまいが変わるのも仕方がないよ。そういう意味で、キャラを演じ分けることも1つの誠実さだと思うんだけど。

 

  • ④:生徒Dーうーん、自分らしさって本当に必要なのかな?   外キャラの呈示が当たり前になっている現代では、自分の意見や感情を前面に出すのは、むしろ不誠実なことだと見なされているよ。自分らしさを抑えて、キャラになりきることのほうが重要なのでは?


太字で示した通り、生徒B(肢②)は「誠実であるか否か」の話をしています。他方、生徒D(肢④)は「不誠実であるか否か」の話をしており、この点で傍線部Dとは合いません


「誠実」「不誠実」の間には、「誠実でもなく、不誠実でもない」という中間部分があります。この中間部分を考慮に入れると、すぐに「生徒B(肢②)が傍線部Dと合う」という結論に至ることができるでしょう。


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話し合いで使われる言葉


以上、長々と説明してまいりましたが、今回扱った問題の答を当てるだけであれば、他の方法のほうがわかりやすい説明になるかもしれません。しかしながら、アクティブラーニングが重視されてきた背景を考えると、単なる受験テクニックだけで捉えるべき問題ではないと思え、「話し合いの把握」という観点での解き方を紹介させていただきました。


「他者と意見交換をする場面では、どのような言葉が使われるのか」

「どのようなことに注意して言葉と向き合うべきなのか」


今回扱った問題は、こういったことを考えるヒントになると思います。

 

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「自分の言葉でものを伝える力」の重要性がますます高まっていくと予想される日本社会。その中に飛び込もうとする「これからの人たち」は、話し合いの経験値を高める必要に迫られているのではないでしょうか。

 

(吉崎崇史)

 

 

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